峨蔵山系と赤石山系をテント泊で歩く  (第一部 )   (エントツ山登山記) 

2021年5月3日 峨蔵山縦走

峨蔵越〜鯛ノ頭〜二ッ岳〜イワカガミ岳(西峰)〜エビラ山〜黒岳〜日本石〜権現山〜権現越(ビバーク)

2021年5月4日 赤石山系縦走

権現越〜東赤石〜八巻山〜石室越〜前赤石〜物住ノ頭〜西赤石山〜銅山越〜西山〜ツナクリ山〜土山越

〜大永山トンネル南口


「今回のルート図」


カシミールソフトを利用したGPSトラックログ図 峨蔵山系〜赤石山系縦走図


プロローグ

山歩きを始めた頃は伊藤玉男さんの「赤石の四季」(愛媛の山旅)ガイドブックが私にとって赤石山系のバイブルだった。
伊藤玉男さんによると、チチ山の別れから北に派生して吉野川へと続く山域全体を「法皇山脈」とされている。その中で
土山越から綱栗山〜西山〜西赤石〜物住ノ頭(あたま)〜前赤石〜八巻山〜東赤石〜権現越〜権現山〜黒岳〜エビラ山〜
二ッ岳〜峨蔵越までを広義で「赤石山系」と呼ばれている。更に狭義にはこの中で権現山〜黒岳〜エビラ山〜二ッ岳〜峨
蔵越までの角閃岩(かくせんがん)で構成された岩峰群を「峨蔵山」と区切られている。

尾根続きを区切って名前を付けるのは大変難しく、特に今の若い登山者は「峨蔵山」(がぞうざん)と言ってもピンと来な
いだろう。下に伊藤玉男さんの巻末「赤石山系ガイドマップ」地図を掲載しておこう。


これが我々人世代昔の登山者が拠り所としてきた伊藤玉男さんのガイドブック地図である 実に説得力のある地名が並ぶ


二ッ岳から権現越のルートは私が最初に歩いた2005年(今から16年前)は未だ踏み跡も定かではなくエスケープルートが
無い所から四国でも難ルートの一つだった。遭難者が出た事もあって危険なイメージが増幅されたのかも知れない。この熟達者
コースを当時足に自信がある登山者が競ってここを歩いたものだった。しかし、このルートを3度程歩く内に鹿の影響も有り藪
も次第に減って踏み跡も増えて来た。

今年、コロナ過2年目を迎えて遠征が難しい状況の中、四国でテント泊訓練を続ける為に二ッ岳から大永山トンネル南口を
1泊2日で歩く事を計画した。犬返し仲間では大方既に峨蔵山を一緒に歩いていたのだがラインで計画を告げると、このルー
トを未だ歩いていなかった黒河ジュニアさんが二つ返事でご一緒させて下さいとの返信が入る。彼と私とでは親子程歳が離れ
ており当然歩くスピードが違うので「私より先に歩かない条件」で同行する事になった。

ビバーク地は漠然と権現越か東赤石三角点辺りとして最終的には現場で判断。水は2.5リッターだけ持って夕食と二日目の
水は権現越にて床鍋谷の源流地で補水する事にした。



 「赤石山系」 今回歩いた二ッ岳から西赤石までの山々を平家平から眺めるの図


第一日目 峨蔵山縦走

峨蔵越〜鯛ノ頭〜二ッ岳〜イワカガミ岳(西峰)〜エビラ山〜黒岳〜日本石〜権現山〜権現越
(ビバーク)
 約11時間30分

出発後早速の躓(つまづき)き 林道峨蔵線(肉淵)入り口を見逃す

肌寒い朝、05時15分山根公園で落ち合い2台で出発。良い天気で沓掛・黒森は朝日を浴びて焼けている。チチ山はまさ
かの雪が被っていた。ジュニアさんの車を翌日の下山地、大永山トンネル南口へデポし私の車で峨蔵林道登山口へと向かう。

しかし、話に夢中になり峨蔵林道の入り口を見過ごし相当ロスして引き返す。以前も伊予の鈍亀さんと行った時にも通り過
ぎた事がある。ここは曲がり角に林道入口があるので西から来るとあっと言う間に見過ごしてしまう。今度はジュニアさん
のスマホ地図頼りに東側の違った林道を上がってしまい民家の庭に出てしまった。

登山は登山口まで行き着ければ9割方成功と言われるが、結局このロスで登山口へ着いたのが07時前になってしまい、一
体何のために早朝から集合したのか分からなくなった。


  
  早朝、大永河又(こうまた)から焼けた黒森山を眺める    大永山トンネル手前の展望所からチチ山を見ると雪を被っている

登山口(標高約900m)〜峨蔵越(標高1,266m) 約1時間40分

二ッ岳登山口は林道峨蔵線の終点部で、未舗装の道が小箱越(おばこごえ)まで続いていたのだが、今は崩落などで破線を
辿る事は難しい。登山口には既に2台の車が停められていたので邪魔にならない様に残り1台分のスペースを作って停める。
07時05分登山口の鉄階段を上がる。

15分程急登が続き一旦尾根筋(二ッ岳南東尾根=東宮尾根)に上がると、すぐに峨蔵越に向かって整備されたトラバース
登山道が続く。ここから小箱越に向かって谷へ下る破線があるが、今は廃道になって定かでは無い。右手に流れる「大木谷」
の対岸にある尾根は「他領津」(たりょうず)と呼ばれてその稜線部が小箱(おばこ)越となっている。

途中、大木谷の支流になる沢(谷筋)を渡るが小さな沢を含めると4つの沢筋がある。最初の沢筋にはコチャルメルソウ
咲いている。このユキノシタ科の植物はあまりにも細長いのでまずピントが合わない厄介な物だ。花が実になるとラーメン屋
台のチャルメル(ラッパ)の形をしている所から名付けられているが、そんなに詳しく観察した事も無い。

日当たりが良いのでミツバツツジやアケボノツツジもポツポツと咲いており最後の4つ目の沢(水量も豊富で水場になってい
る)を過ぎると08時47分峨蔵越に着いた。


  
 07時05分登山口の鉄階段を上がる               15分程で尾根筋に着き、大木谷本流側に回り込む

  
 トラバース路の最初は植林も見られる              07時58分最初の沢にはコチャルメルソウが咲いていた  

  
 石畳の古くから整備された登山道                  ん? サバノオ?

  
  ミツバツツジと新緑が気持ち良い 向かいの他領津尾根    アケボノツツジが咲いている

  
 08時40分水場になっている4度目の沢を渡る         08時47分 峨蔵越に着く      


峨蔵越(標高1,266m)〜鯛の頭〜二ッ岳(1,647.3m) 約2時間30分

(鯛の頭岩峰訪問も含む)

峨蔵越から二ッ岳へは東尾根主稜線に沿って標高差400m弱をひたすら上って行く。08時50分峨蔵越を出発しシャクナ
ゲの岩場やアケボノツツジの花を眺めながらこの急な稜線這い上がりも変化があって意外と楽しい。黒河ジュニアさんを先行
させるとドンドン先へ進んでしまうので常に後から歩いて貰う。私のザック重量は13kg程に抑えているが、彼のザック
「グレゴリーのバルトロ」は17kg程だろうと言う。

この時期、コヨウラクツツジの花にもよくお目にかかるが、これもコチャルメルソウと一緒でピントが合いにくい厄介な花だ。
瓔珞(ようらく)とは仏像の首飾りで装身具、それも小さな物だが小瓔珞だからもっと小振りで一見赤い実の様に見える。この
花も詳しくアップで見た事は無い。

09時15分になると、以前ここの急傾斜には「ここから先は命掛け」という三島警察署の看板があって登山者を脅かしてい
たものだが、現在は「ここから先は特に危険」(四国中央警察署)と文言が少しマイルドになっていた。
その上にある最初の
コブを越えて左手から岩場を前方に出ると二ッ岳が左手の肩部と双耳峰の様に見えてくる。振り返るとハネヅル山が小箱越を
中心に台形の尾根が横たわる。

岩場を一つ越えると09時42分2連の長いアルミ梯子が岩場に現れる。最初に二ッ岳に登った18年前にはこの梯子は未だ
設置されておらず苦労して岩場を這い上がった。その2年後に初めて峨蔵山縦走をした時には既にアルミ梯子が有った。


  
 アケボノツツジが咲き誇る尾根を二ッ岳へと進む        コヨウラクツツジもピントが合いにくい


 登山道の大岩に上がるとアケボノツツジ越しに赤星山への尾根筋が見える

  
 09時08分 初めてのロープが現れる            すると「ここから先は特に危険」(四国中央警察署)の看板がある

  
 左手斜面にはアケボノツツジがピンクの帯を作る        一つピークを越えてアケボノ街道を上がるジュニアさん


  アケボノ街道を進む  峨蔵越から鯛の頭までのアケボノツツジは定評がある

  
 09時42分 2連アルミ梯子 下側がダブルに組まれている  大きい荷物を担いで元気に上がってきてるわい


鯛の頭

09時57分「鯛の頭」の岩峰に着く。当然ザックをデポして岩の上へと進む。ジュニアさんは初めてこの岩に上がるとの
事なので今回は安全策で大人しくロープ場から這い上がる事にした。以前、高い所が苦手だった黒河ジュニアさんだがその
後幾多の経験を積んで現在では岩場もバランスが良くへっちゃらで頼もしくなっている。

ここで上から下りて来た単独女性と少し話をすると二ッ岳から縦走路に入った場所が残雪で危険そうだったとの事。朝チチ
山の天辺が白かったがまさか軽アイゼンまでは要らないだろう。



 09時57分 鯛の頭標識に着き、ザックを置いてジュニアさんとロープ場から岩に上がる事にした

  
 鯛の頭へ上がる ジュニアさんも逞しくなっている       正面が二ッ岳本峰で左手は南側の肩ピークだ


  鯛の頭 先っぽに立つ   まだ先が長いと言うのにこんな事してていいのかしら?


 「鯛の頭」 バックには赤星山、 その手前にある尾根の右端がハネズル山

   
 鯛の頭ロープ場を下りる                       10時20分 登山道に復帰して二ッ岳へと向かう


二ッ岳  三等三角点「二ッ岳」 1,647.27m

10時20分鯛の頭から下りて登山道に復帰する。藪っぽい尾根から岩稜帯になり厳しい二ッ岳のワイルドな尾根を這い上
がって行く。シコクバイカオウレンが岩陰に咲いてはいたが以前より数が極端に減っていた。所々に残る雪を見ながらお馴
染みの三角錐岩が現れ、山頂は近いと感じる。最後は荒れ気味の傾斜を這い上がり
11時16分二ッ岳の三角点峰に着いた。

重たいテント泊装備の為、登山口から二ッ岳まで4時間10分もかかってしまった。山頂には二組の登山者が居られて、そ
の内の1組、地元土居町の方が息子さんと来ており、数日前の冷え込みで霧氷がびっしり付いていたので、残雪は霧氷が落
ちた物だろうと言われていた。

二ッ岳の北側にある岩展望所に出て今から歩く峨蔵山の縦走路を眺める。縦走尾根は太陽が当る南面しか見えないので雪は
無い様に見える。まあ、この分では北面も大した事はなかろう。


  
登山道の最初は比較的なだらかな灌木帯だが次第にワイルドになる  10時43分ロープ場が又現れた

  
 二ッ岳の北側に張り出した尾根部が見えるがまだ距離がある  登山道の岩陰に今年もシコクバイカオウレンが咲いている

  
   岩の殿堂 二ッ岳だ                       11時10分 三角錐岩が現れると山頂は近い

  
 日陰には雪が残っているぞ                      11時15分 二ッ岳山頂に到着した


何とか縦走のスタートラインまでテント箔装備を担ぎあげた  黒河ジュニアさん! 1泊にしては荷物が多すぎるぞ!
エントツ山のザックはグレゴリー オプテイック58L 1,243g 、ジュニアさんのザックはグレゴリー バルトロ65L 2,110g
                     

いよいよ峨蔵山縦走

「峨蔵山縦走の鉄則:峨蔵山の縦走尾根は大きなトラバースは必ず南側に回り込むルートになっている。北側に回り込む
トラバースはほぼ尾根筋は外さない。」これを頭に入れておこう



 二ッ岳・南展望所から峨蔵山縦走路を眺める  縦走の中間部がエビラ山となる


 二ッ岳南展望所から銅山川沿いとその西側を眺めるの図

 

二ッ岳〜イワカガミ岳〜エビラ山〜黒岳〜日本石〜権現山〜権現越   約7時間


 カシミールソフトを利用した峨蔵山縦走GPSトラックログ図  二ッ岳〜権現越

 

11時25分二ッ岳三角点に帰り峨蔵山縦走路へと向かう。縦走路への入り口は意外にも北側の斜面に向かって急斜面
を下る。ここに残雪があり滑るので右手の樹林帯越しに樹を掴みながら下って行く。斜面を下り切って明確な尾根に乗
ると高松軽登山会の「東赤石山・権現越」の標識が置かれていた。尾根なりに進むと一旦小ピークに出て行き詰るので
イワカガミ岳を眺めた後右手の縦走路へ復帰する。

11時40分最初に岩尾根を左にトラバースし、藪っぽい斜面を15分程進み又尾根に復帰する。白い境界杭が立って
いるが、イワカガミ岳が近づくとワイルドな尾根が続く。

  
 さあ、今日は何処まで行けるかなぁ?          歳の差コンビ!  行くぞ〜〜〜

  
 縦走のスタートは斜面を下って尾根に乗る       斜面を下った所に高松軽登山同好会の標識が置かれている


 縦走路を少し外れた左側の小ピークからイワカガミ岳を眺める 二ッ岳本峰より標高が高い

  
 現在、尾根筋には踏み跡が付いている         11時40分(出発15分後)最初のトラバース(左へ)

  
  大岩の下を巻いて前方に進む テープ有り      15分程で尾根筋に復帰する

イワカガミ岳(二ッ岳・西峰) 標高約1,675m

12時02分何でも無い様な右手の崖に虎ロープが張られている。滑落事故でもあったのだろうか。暫く尾根伝いに歩くとイワ
カガミ岳の直下に出てシャクナゲの崖をロープ伝いに這い上がり12時25分イワカガミ岳に着いた。狭いピークにケルン状
に岩が積まれているだけの愛想が無い場所だが、二ッ岳本峰の標高が1647.3mより30m程高い。

確かに手前の岩尾根越しに見える二ッ岳(本峰)は心なしか目下に見える。しかし不便な縦走路にある事から正式な標高値が地
形図に記されていない。東西からこの二ッ岳を眺めると左右に鬼の角が生えている様に見える。つまり本峰とこの西峰のピーク
が角(つの)に見えているのだ。


  
 尾根の右側にトラロープが張られている             イワカガミ岳に向かって岩峰にロープが現れた


  イワカガミ岳の肩部から二ッ岳・本峰を振り返る  右奥は県境尾根にある大登岐山だろう


  12時26分 イワカガミ岳を通過  愛想の無いピークだ


 イワカガミ岳の西肩から次の目標、エビラ山を眺める  エビラの右に小振りなピーク黒岳、その奥に赤石山系が並ぶ

イワカガミ岳のピークから下りると12時35分直ぐに又左手にトラバースするが、ここは5分程で直ぐに岩尾根に復帰
してエビラ山とのコル部へ向かって下って行く。この肩部辺りから振り返るとイワカガミ岳の尖ったピークと二ッ岳本峰
が並んで見える。

前方にはエビラ山の台形とその右に黒岳、更に奥には上兜、下兜が並ぶ。そして丁度南側が肉淵谷川に向かって切れ落ち
ており別子花街道の道路まで見える。
12時54分イワカガミ岳の西側肩部中間点に出ると崖状になっており気を付けて
下る。すると「ゴジラの手」と名付けた角閃岩の岩峰が南側に突出して見える。


  
 イワカガミ岳を過ぎても尖った小さな岩峰が続く         12時35分 左手にトラバースする

  
  一旦尾根に復帰するが直ぐに又左手に迂回する                       大岩がある度に小さな迂回が繰り返される

  
 尾根部からエビラと黒岳を見る 奥に上兜〜下兜の尾根     新居浜沖の大島が霞んで見える


エビラ山へと続く峨蔵山の藪尾根  手前の岩峰がイワカガミ岳の西肩部、エビラ山の右奥に黒岳、その奥に上兜山〜下兜山が並ぶ

  
 銅山川沿いの肉渕、瓜生野辺りだろう 岩が尖っている        崖状の斜面を下る


        「ゴジラの足」と名付けた岩が南側に立つ  左奥がイワカガミ岳


        13時10分 肩部からイワカガミ岳と二ッ岳を振り返る

13時17分イワカガミ岳とエビラ山の中間コル部に着いたので少しの間昼食休憩を取る。ジュニアさんは体脂肪がアスリ
ート並みに低いので恐らくお腹が空いている筈だ。山専ボトルのお湯でカップヌードルを作って食べている様だ。同行者を
待たせない様に昼食はガスを使わずお湯を持ち歩いている。私は一人歩きだと昼食休憩は取らずにビスケット等を齧りなが
ら歩き続ける。

ここで峨蔵越で会った二人組の男性と再会する。彼らは峨蔵越から一旦東のハネヅル山へ行ってから二ッ岳〜峨蔵山縦走を
すると言ってた元気な若者だ。お互いのエールを送って先行する彼らを見送る。

コル部を越えてもエビラ山までには更に冬枯れの藪っぽい岩尾根の小さなピークが二つ続く。大きな岩を下る場所にはロー
プなども置かれてワイルドとは言え多少の整備がされている。久し振りにアケボノツツジの花が現れたがこの辺りではまだ
蕾だった。シャクナゲ藪の向こうにエビラ山の台形が次第に近づいてくる。


  
13時17分中間点コルに来たのでこの先で20分程昼食休憩を取る  ザックを担いでエビラ山へと向かう まだ2つ小ピークがある

  
 ブナもあるが全体的に尾根は灌木藪である          13時50分 岩場のロープ場を下る

  
 シャクナゲ藪も通過する                      この辺りのアケボノツツジは未だ蕾だ

  
懐かしい岩から横に生えた天然ヒノキを潜(くぐ)る         なんだかんだ言いながらエビラ山も近づいて来た     


エビラ山 1,677m 縦走の中間点

14時05分エビラ山の基部に着くと足元にはバイケイソウが生えており、リョウブの枯れ木等この辺りにも鹿が増えてい
る印象強い。
14時30分エビラ山に付くと香川ヤマッパーの「だめだめボーイ・かっし」さんにお会いした。山を歩く
人は
色んな性格を見うけるが、やはりかっしさんの様に明るい登山者に会うと山の印象も良く気持ちが良いもんだ。

 縦走路でお別れした後、南側にある山頂標識を訪問する。見ての通りエビラ山は台形をしており、地形図の1,677m地
点は南側に張り出した場所にある。標高はそんなに変わらないのだが、この地形図に標高表示があったり、三角点があった
りするとそちらが山頂と見なされるのが人情だ。

14時42分ジュニアさんがエビラとエビをかけてエビ反りをするので付き合う。勿論エビラは武士の矢箱の事だと説明す
る事は忘れない。



  14時00分 やっと近づいたエビラ山の東斜面を眺める  エビラ山は四方に尾根が張り出している箱型だ

  
 エビラ山直下のコル部はバイケイソウが生えている       東斜面の灌木は鹿害に遭っているのか枯れている


 エビラ山の縦走路山頂で香川の「だめだめボーイ・かっしさん」に会う この先まで行って、二ッ岳へ引き返すと言う

  
エビラにかけてエビ反りを提案するジュニアさん         エビラ山のエビラってのは武具の矢を入れる箱の事なのよ

14時50分縦走路に帰って又重いザックを背負いエビラ山のシャクナゲ斜面を西側に下る。前方には尖った黒岳とそのバッ
クに赤石山系が並ぶ。
15時07分前方の岩壁を避ける為この縦走路で三度目の大きな南側へのトラバースになる。岩棚を
抜けて尾根に復帰すると鹿の食害で荒れた枯れ木が並ぶ尾根になる。こんな場所では必ずバイケイソウが見られる。

15時25分又大岩を左に巻いてトラバースする。峨蔵山の縦走尾根は大きなトラバースは必ず南側に回り込むルートにな
っている。北側に回り込むトラバースはほぼ尾根筋は外さない。


  
14時50分 二ッ岳を振り返った後、エビラ山を西に下る   次の目標は黒岳だ (右手前の尖がりピーク)


 前方に黒岳の小振りだが秀麗な形が見える  その奥には赤石山系が立ち並ぶ 右奥は下兜山

  
 15時07分 エビラ山を下る途中で左にトラバースする     岩棚を通って前方の尾根へ復帰する

  
 尾根に復帰して荒れた灌木帯を進む               やはり鹿が生息する場所にはバイケイソウが生えている

  
 藪や岩を避けて左手に小迂回をする            尾根に復帰した後、又大岩を左に小迂回し15時30分尾根に這い上がる

黒岳 三等三角点「保土野越」1,636.0m

黒岳まではそれほどの高低差は無いが、この辺りは柱状節理の岩が沢山斜めに立っている。山の形は造山活動や風化によって
思わぬ芸術性を持ってくるものだ。黒岳は小振りだが尖った良い形をしているのでエビラ岳の台形と対比して遠くからでも良
く同定出来る。

基本樹木は生えているが岩山なのでシャクナゲや灌木の間を抜けて肩部に着くと今まで歩いて来た二ッ岳とエビラ山を見渡す
事が出来る。ジュニアさんもその縦走路を感慨深げに眺めている。ほどなく16時07分三等三角点のある「黒岳」に着いた。
点名は西側に下った「保土野越」が採用されている。

保土野」(ほどの)集落は別子銅山開坑以前からあった集落=本村の中心部で、閉山以後は役場や学校などはここに移され
銅山川沿いでは集落が並ぶ地区である。(別子銅山開坑後に出来たそれより東側の部落、足谷・日浦などは銅山部落と呼ばれ
ていたらしい)

峨蔵山スタートの二ッ岳は標高1,647.27mでこの黒岳は1,636.0mだからピーク通しにはほぼ高低差は無い。



  
 そうこうしながら尾根を進むと15時48分眼前に黒岳が現れた  この辺りは岩峰が斜めに立っている

  
 斜めの大岩を左手から巻いて進む                最近はテープなども結構残置されている


 黒岳の肩部まで這い上がって振り返るとエビラ山と奥に二ッ岳、その奥には赤星山が現れる

  
  全然へタラず元気なジュニアさん                     疲れ気味のエントツ山 でも気分は最高〜〜?

  
 16時07分 黒岳山頂 (三等三角点「保土野越」)に到着〜〜
   

保土野越 
(古い峠)

黒岳の西肩部から権現越までは下りになるので、日本石のトンガリや権現山、さらにその奥に衝立の様に並ぶ赤石山系の山々
が見える。今まで北側からガスが立ち上る事が多いのでこんなにスッキリ見える事は珍しくジュニアさんもラッキーだ。

黒岳を西側に下るとまるで鉱山のズリの様にザレている。この辺りは鉱物の宝庫とされて地質学者も結構訪れているらしい。
ガーネットがあるってジュニアさんに言ってザッと探すが、もう目に付く辺りの物は採り尽くされているのか有る筈も無い。

黒岳を下ったコル部が「保土野(ほどの)越」と呼ばれる場所で、銅山川沿いの保土野から保土野谷川沿いを詰めて殿ヶ関
からこの保土野峠に至る古い道がある。マーシーさんとここを下って黒滝経由で保土野へ下ったが結構ワイルドな場所である。

一方、北側は尾根沿いを大窓〜熊鷹山を通って上野への古い道があるが、これも歩いたが結構遠い。どこもそうだが、昔は
あらゆる山を越えて交易路、生活路が峠を通って登山者も敬遠する様な難所を結ばれていた。

峨蔵山縦走が難路と言われるのは、このようなエスケープルート自体が更に難所となっているので逃げ場が無いって事なの
だ。この保土野越で冬に山仲間と忘年会をした事を若いジュニアさんに得意そうに話してしまった。


        黒岳の西肩部から見る権現山〜赤石山系の山々

  
黒岳の西斜面はザレ場になっている         ガーネットの粒があるらしいけどどんな物か見たことも無い

  
 16時30分「保土野越」を通過            小振りなブナが立つ細尾根を進む

角閃岩の岩場 二本石(天狗嶽)=日本石

小振りなブナや灌木に覆われた尾根を下って行くと16時37分日本石分岐に着いた。主稜線はそれまで東西に延びて来た
のだが、保土野越から日本石基部まで南西に方向を変える。この保土野越と曲がった先の日本石基部にそれぞれカタツムリ
の角の様に尾根が北側に延びてその間に断崖絶壁を作る。

ここまでテント泊縦走装備の重いザックで時間がかかってしまったが、初めて歩くジュニアさんにここを案内しない訳にも
行かない。
元々は「二本石」とか「天狗嶽」と呼ばれていたらしく北側の高速道路付近から見ると岩が2本立っている所
からそう名付けられたという。私的には高速道路からここを見上げると西条の傾山と同じように鬼の角が二本立った傾き気
味のミニ・二ッ岳の様に見えるる。

但し、縦走路の黒岳付近から眺めると一角獣の様に一本の岩峰が突き出ているので現在は「二本石」という名称は使わず
日本石」と呼ばれる様になっている。

この岩場は先に述べた様に主稜線から北側に突出しているので分岐にザックを置き身軽な格好で岩場に向かう。高い所が苦
手のイメージがあったジュニアさんだが、色んな場所を歩いた経験でもう苦手意識は見られなかった。岩場の先端部まで進
んで新居浜の沖に浮かぶ大島を眺める。又、縦走路から北に外れているので今から歩く権現山までの稜線やその奥にある赤
石山系も良く眺められる。


  
 歩きにくいブッシュの岩尾根を先端部へと進む          突端は切れ落ちており、新居浜の沖に浮かぶ大島が見える

  
 権現山へ続く尾根とその奥に東赤石                角閃岩の硬い岩峰が切れ落ちている


  ジュニアさんにもこの日本石を紹介出来た 縦走基部へ引き返す   バックは黒岳

17時丁度に灌木に覆われた分岐に引き換えし権現山へ向かう。日本石分岐から稜線を南にトラバースしながら下る。権現山
まで2つ程まだピークを越さなければならず、この辺りが忍耐の要る歩きとなる。中間部にある1,546mピークへのコル
部は以前すんなり歩けない程に物凄い笹薮だったが、今は鹿の食害を受けて藪が消滅し枯れている。この無名峰付近はブナが
沢山立ち並ぶ峨蔵山でも素敵な山域だ。



  主稜線から北西に突き出した「日本石」の厳しい岩峰 ここから見ると2段になっている

  
 手前の小ピークを一つ越える                    この辺りまではまだワイルドな尾根が続く


 以前は笹のブッシュだったが今は枯れている  前方は1,546mピーク 権現山はその又向こう側だ


       西陽を浴びるセピア色の黒岳とエビラ山を振り返る

 

権現山 四等三角点「権現」 1,593.78m

 
17時30分1,546mピークを越すと残りは今日最後のピーク、権現山となる。バイケイソウとブナが立ち並ぶなだら
かな尾根を上り17時58分「権現山」に着いた。三角点はあるが展望が無く平凡な頂きである。写真を撮影しながらしば
し休憩する。

権現山の名は西側の岩峰、権現岩に祀られた「法皇権現」から来ている。北側(土居町)の山は五良津山(いらづやま)と
古くから呼ばれているが、どうもこれは元々「不入山」(いらづやま)から来ている様で天狗が住んでおりこの法皇権現を
霊地として祀り豊作や雨を祈ったとされる。 すると先程の二本石が天狗嶽と呼ばれていたのも頷ける。

  
 コルにはバイケイソウが沢山生えている         ブナが立ち並ぶなだらかな尾根を権現山へ向かう

  
 17時57分 権現山の三角点に到着する       あ〜〜もう今日のビバーク地は権現越に決定〜〜!


この時点で水の調達を考えると既にビバーク地は権現越に決定されている。やはり東赤石まで進むのは無理だったようだ。

黒岳から南西方向に権現山まで進んで来た主尾根はここから少し北側に回り込んで弧を描いて権現越へ下って行く。その回り
込んだ尾根のコル部には西陽を浴びた権現越が白く霞み、奥には東赤石が壁となっている。以前ここも笹薮だった下り斜面だ
ったが今は枯れた笹の茎がならぶ荒地になっている。


18時10分南側から延びて来た四国電力の保線路が尾根に合流すると整備された道が先の鉄塔まで続く。5分程で四国電力
本川線20番鉄塔に着く。ここから北側に延びる五良津(いらづ)尾根を通って「大森越」を経由し河又〜大川〜土居の関川
へと下るルートがある。従来権現越から北へ延びるのが大森越のルートであったが現在は北側斜面の崩落が激しく、この鉄塔
から北へ下る道が主流となった。


西陽が当る権現岩を左手に見ながら権現越へと足早に下る。ここでビバークをするのが初めてなので果たして適当な場所があ
るか早く下りて確かめたいので気持ちが逸(はや)る。


    
西陽が眩しい権現越に向かう 奥は東赤石             18時11分 四電鉄塔保線路と合流する

  
 四電本川線20番鉄塔が南側の大森越分岐になっている   笹が枯れた斜面を権現越へと下る


  権現岩の横を通過する ここは東赤石へ上る時にいつでも寄れるので権現越へと急ぐ

  
     法皇権現様 失礼致します                  権現越へと気持ちが急ぐ 果たしてテントは張れるのか?


ビバーク地 権現越

18時35分権現越に着き、早速テントが張れる場所を検討する。標識等が立つ平たい裸地があるが、泥っぽい場所なので
パス。権現越の標識付近も平たい場所なのだが、登山道になっているのでパス。実際翌朝まで誰も通らないのは分かってい
るけどマナーとして登山道にはテントを張るには抵抗がある。結局少し斜めではあるが比較的なだらかな草地にテントを並
べて張る。

18時50分夕日が上兜の肩へ沈むのを眺めた後、急いで水袋を持って沢へ水汲みに向かう。以前床鍋谷を遡行した時に源
頭部が意外と権現越に近い藪の中にあった。しかしジュニアさんと登山道を下るが右手の沢筋からは水の流れる音がしない。

適当に右手の藪に入って沢部に出るが水が取れる状態では無かった。結局、登山道が沢を渡渉する辺りまで下って、それで
も上戸を使って補水する。もう辺りは真っ暗でヘッドランプを照らしながら補水と浄水を繰り返す。ダウンを羽織ってテント
を飛び出して来たのだが、沢を吹き上がる風や水が冷たい。テント泊で給水の大事さ、面倒くさい事がジュニアさんに伝わっ
ただろう。

疲れた足でヨロケながら水を抱えて登山道をテントまで引き返す。草地を避けた尾根筋の登山道に出てガスでお湯を沸かして
夕食をとる。固形燃料やアルコール燃料がウルトラライト装備でもてはやされたが、山岳縦走で疲れ切った時は手早くお湯を
沸かすガスバーナーに限る。アルファ米(白米)と畑のカレーも持ってきたが、これすら面倒でカップ麺を作る。食後の楽し
みはコーヒーとお菓子でマーシーさんやの〜ちゃんが居ないので酒も無く盛り上がりに欠ける夜だった。早めにテントに入っ
て少しテント越しに話をしながら就寝する。

私は星空撮影が出来るコンデジを持ってきたので夜空を楽しむ。でも本格的なカメラでは無く三脚も使わないのでそれなりの
写真しか撮れない。後は自分の眼で夜空を存分に楽しんで寝る。



  登山道を外して比較的平らな草地にテントを張る準備をする  (写真は翌朝の物)

  
18時30分急いでテントを仮設営する                何とか日没に間に合った様だ


 18時50分 太陽が上兜・串ヶ峰の肩部に沈んで行く  下兜のシルエットも良い  この風景がテント泊の醍醐味だ


 手持ち夜景モード  やはり三脚を使わないとブレがある  下兜山を中心に


東赤石の肩と星  これは星空撮影モードだが三脚は使っていない(標識にカメラを押し付けて撮っている)のでやはりブレている


  権現山方面の星空  これも星空撮影モードで標識にカメラを押しつけて撮っている


二日目 権現越〜東赤石〜西赤石〜西山〜綱栗山〜土山越〜大栄山トンネル口 は   ここ  

参考付録

峨蔵山に関するエントツ山の山行記を下記に纏めてみる

峨蔵山縦走 (二ッ岳〜エビラ山〜権現越)
 2005年6月26日 二ッ岳〜エビラ山〜権現越〜東赤石〜瀬場

 2013年5月4日  二ッ岳〜エビラ山〜権現越〜床鍋

 2017年5月4日  二ッ岳〜エビラ山〜権現越〜床鍋

 2018年4月29日 二ッ岳〜エビラ山〜権現越〜床鍋

峨蔵山に関するバリエーションルート山行

2007年12月16日 河又〜大窓〜保土野越〜黒岳〜権現山〜鉄塔巡視路(北)〜河又

  
   カシミールソフトを利用したGPSトラックログ図
 
 2009年5月2日  肉淵谷橋〜しおじ滝〜ののじ滝〜けやき平〜二ッ岳〜南尾根〜肉淵谷橋


 カシミールソフトを利用したGPSトラックログ図


2010年4月4日  肉淵谷〜エビラ南尾根〜エビラ山〜黒岳〜保土野谷〜黒滝〜保土野谷堰堤


カシミールソフトを利用したGPSトラックログ図

2020年2月8日  浦山川〜熊鷹山〜峨蔵山北面水平道〜中の川登山口


カシミールソフトを利用したGPSトラックログ図



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