現代版「石鎚山ー剣山単独無支援縦走」 平成27年10月14日〜10月26日(13日間)

第一章     石鎚山〜大座礼山(大北川源流)〜大田尾越


石鎚山〜剣山縦走ルート図 (13日間)


カシミールソフトを使ったGPSトラックログ図 石鎚山〜剣山縦走ルート

第一章     石鎚山〜大座礼山(大北川源流)〜大田尾越


カシミールソフトを使ったGPSトラックログ図 石鎚山〜大座礼山 第一ベースキャンプ地まで

1日目(10月14日) 石鎚山〜岩黒山〜伊吹山〜シラサ避難小屋 約8時間行動

直線距離:15.6km 沿面距離:16.2km 累積標高差:3,337m


カシミールソフトを使ったGPSトラックログ図 石鎚山〜シラサ避難小屋


いよいよ縦走の当日がやって来た。一昨日までハウステンボスや湯布院へ九州家族旅行(名目は私の退職記念旅行って事で)へ
出かけており、昨日は車を土佐岩原へデポして新居浜の実家に帰るという忙しさ。
新居浜祭りが10月16日から18日行われ
るので祭り大好き人間の修一兄貴が東京から帰省するタイミングを狙って縦走出発日を今日(10月14日)に決めたのだった。


この所10日間程晴天が続いたのでそろそろ天気が崩れないか心配だったが天気予報によると出発して数日間は不思議と天気が
安定しておりホッとする。


JR西条駅から石鎚ロープウェイへのバス始発07時43分に合わせて山根大通りを07時頃のバス、JR特急で新居浜駅07時
24分発、西条駅へ07時33分に着く。今日は水曜日だがバスやロープウェイには登山者や石鎚参拝者が結構いた。09時前に
成就駅へ着き縦走を開始する。西之川から歩いて登る事も考えたが今まで何度も歩いている事もあり日程をセーブする為にロープ
ウェイを利用した。


  
  JR西条駅  前方の長屋みたいな建物がバス乗り場       JR西条駅から石鎚ロープウェイ下谷駅まで丁度¥1,000

  
 石鎚ロープウェイ08時40分始発便 ¥1,030.−         ロープウェイ成就駅の広場から瓶ヶ森、子持ち権現を眺める

09時10分成就社本殿にて参拝し、拝殿へ回る。奥の窓越しに石鎚が威厳を持って姿を見せている。ここに来た時に霊峰石鎚が
見える確率は非常に低いのだが縦走の出発を気持ちよく石鎚大神様も迎え入れてくれた様だ。


気を引き締めて神門を潜り登山道に入る。1か月ほど前、雨の中を高速道路の側道で夜ウォーキングしていた時に下りで道を横切
る溝のグレーチング蓋で滑って転倒し後頭部と背中、手の薬指を打って以来背中と指の痛みが取れなかった。若い時は怪我をして
もいずれは自然に治癒したものだが、歳を取るとこれが長引いていつまで経っても治らない。体調万全ではないがここは覚悟を決
めて八丁坂を下る。気合だ〜〜〜


  
    石鎚成就社から石鎚山が良く見える                成就社拝殿から見る石鎚北面

紅葉を見上げながら前社ガ森への階段を上がり10時10分季節限定茶店に着く。大勢の登山者が休憩をしているがここは店が営
業していない時にはロープを張って休憩所に入れない様にするのが個人的に嫌いなので寄らずに素通りする。ひょっとすると登山
者のマナーが悪いのがロープ張りの要因かも知れない。冬場は大体この場所でアイゼン装着となり座れる場所があれば非常に助か
るのだが・・・。


ここから一登りすると石鎚北壁の全様が見える夜明し峠へと出る。稜線のこんもりした森が色づいて屏風の様な石鎚の山裾を飾っ
ている。石鎚の登山中にお気に入りの場所と言えば誰もがこの夜明し峠の名を揚げるだろう。特に霧氷や積雪の時期に霧と青空を
伴った風景は神秘的でもあり格別だ。


左手に見える明日歩くであろう瓶ヶ森方面を眺めながら10時50分新しく出来たバイオトイレ付きの二の鎖休憩所にザックを置
き身軽に弥山へと向かう。


  
前社ガ森の岩場も紅葉が美しい                       10時10分前社ガ森の休憩所を通過


    10時25分 夜明し峠から見る石鎚山 登山道も紅葉で彩られている

  
前方に二の鎖小屋が見える                         石鎚北面は逆光


石鎚弥山(1,974m)  石鎚天狗岳(1,982m)

石鎚山は言わずと知れた日本百名山に選定され、四国では剣山と並ぶ名峰である。天狗岳と南尖峰の標高は1,982mで西日本
最高峰である。標高もさることながらこの気高さを感じる岩山は霊峰と呼ぶに相応しく愛媛の、いや四国の誇りでもある。

愛媛に生まれた私にとって特に思い入れの強い山で、この奥深さに魅了されて正月から一年を通じて何度もやって来る。東稜コース、
面河本谷、北沢、西沢、水晶尾根、或いは今宮道・黒川道、36王子社巡りなど随分楽しみの場を幅広く提供してくれている。


ちなみに石鎚山の三角点(三等三角点「石鎚山」)弥山から一旦下がり北西部、西ノ冠山との中間点ピークにあり標高は1,920.94m
となっており、ここからシャクナゲの花をバックに見る石鎚も又一味違う鋭さを感じさせる。

弥山の頂上社へ安全祈願のお詣りをした後、ここはやはり西日本の最高峰「天狗岳」を踏んで事実上の縦走スタートとする。11時
20分天狗岳に着くと若いカップルが居たので記念写真をお願いすると快く対応してくれて実に気持ち良く石鎚をスタート出来た。


山頂付近は既に紅葉シーズンが過ぎていたがそれでもナナカマドやドウダンツツジの鮮やかな朱色を放ち西側の二ノ森、鞍瀬ノ頭、
堂ヶ森の縦走尾根を飾っている。



      弥山から天狗岳   土小屋の上に岩黒山が低く見える その奥に手箱山

  
  11時10分 石鎚頂上社にて縦走安全祈願をする         天狗岳へ向かう

  
  11時20分 天狗岳に立つ                      ドウダンツツジに飾られた二ノ森方面


                石鎚南尖峰より天狗岳、弥山を振り返る


    ナナカマドと石鎚の西側尾根 左:五代ヶ森  中央:二ノ森 その右手に鞍瀬ノ頭と堂ヶ森

12時に二の鎖休憩所に帰って秋色の登山道を土小屋へ向かう。途中のトラバース道で西予市の岡さんという方からお声を頂いた。
忙しい時も一生懸命に続けて来た四国の山の掲示板やHPを通じてこの様な閲覧者から声を掛けられるのはとても励みになる。


13時30分登山者や観光客で賑わう土小屋に着いて白石旅館の二階でカレーを食べる。何せ今から一週間以上まともな食事にはあり
付けない境遇の身となるのだ。ついでに下の売店で三色焼き餅を行動食に買ってザックに吊り下げる。


   
   天狗岳に別れを告げる                         12時05分二の鎖小屋に帰る

  
 土小屋・成就社分岐より土小屋に向かう                右手の岩場が成就登山道の外れにある剣岩

  
   南予の岡さんに会う                          石鎚南尖峰を振り返る


   土小屋コースから見た石鎚東稜コース

    
13時30分土小屋に到着                          14時00分土小屋登山口から岩黒山へ向かう

岩黒山 (1,745.6m)

14時岩黒山登山口からウラジロモミの暗がりに入ると登山者が減って静かになる。筒上山への巻道と分かれて山道へ入ると登山道で
休んでいた男性に「野宿するの?」と聞かれた。ザックの後ろに突っ込んでいた銀マットを見ての事だろう。この人はお四国参りを野
宿しながら行ったとの事で親しみを感じてくれた様だ。


岩黒山登山道は中腹のコルから大岩を左手に下がる場所に注意が必要だが後は道に迷うような事はない。14時55分岩黒山の山頂に
着くとコメツツジの向こうに武骨な形の筒上山がデンと構えており、振り返ると石鎚が南尖峰から縦の姿を見せ、その左手に二の森へ
の稜線が連なる。


  
 14時30分岩場のコルに着く ここは左へ巻く             大岩を左に巻いて登山道が上に向かう


   14時55分 三等三角点「岩黒山」 1,745.9m に到着

  
   瓶ヶ森、西黒森方面                          筒上山、手箱山方面

さて、ここから少し地味目の岩黒山の下りにこだわりを見せる事にする。つまり岩黒山から県境に沿って名野川越へと下るのである。
山頂から少し南へ進んだコル部から物凄く急な笹原を下側の尾根部へ向かって滑り降りる。このルートは余り歩く人も居ないが案外雰
囲気が良い穴場でもある。


深い笹原だが下りだと意外とすんなり平らな尾根部へ出て、ここから岩の間を尾根に沿って北東へ進む。尾根が割れて少しわかり辛い
所もあるが、ここは最悪左手に下りれば瓶ヶ森林道なので気楽に歩ける。深い笹とブナの尾根を進み正面の細尾根が藪になると少し左
手に踏み跡がありトラバース路に合流して15時50分林道に下り立った。


  
 急傾斜の笹原を県境尾根に沿って下る                  傾斜はすごく急だ

  
途中から岩黒山を振り返る                         手箱山を眺める


      天気がいいから目標の県境尾根と瓶ヶ森・西黒森が見える

  
   岩の多い平坦地へ下り着く                       笹が結構深い

  
   トラバース道に合流                   15時48分瓶ヶ森林道へ一旦下りる (すぐ向かいの縦走路へ入る)

 
そこから今度は道路を隔てた左手に続く縦走路に入り10分程で又林道に帰る。林道を5分程歩くとよさこい峠の通行止めのゲートが
あり警備員が居る。何でも今日は偉い人が現場視察に来るらしい。道路の崩壊現場を以前に見たが酷い状態でここの通行止め工事も長
引きそうだ。

土小屋で自動販売機の水を買い忘れたので警備員に「この辺りに水場があるのですがご存じ無いですか?」と聞くと「さあ よう知らん
けど車にペットボトルがあるからあげようか?」と言われたので恐縮して辞退する。この旅は単独無支援縦走なのだ。


よさこい峠は伊予と土佐の字を取って予佐越峠と漢字の当て字があるが中々のネーミングである。ここから東へ県道40号線が白猪谷キ
ャンプ場、寺川、長沢ダムへ所謂「石鎚公園線」が国道194号線まで延びている。峠の奥にあるトイレの水道をひねってみる。以前来
た時は水が出ていたが今回は出なかった。でもよさこい峠の水場ってまさかこのトイレの水道って訳では無いだろうね。

  
瓶ヶ森林道からすぐ左手に縦走路は続く         なかなか雰囲気が良い縦走路だ

  
10分程で又林道へ下りてしまう」           16時07分よさこい峠を通過


「伊吹山」1,502.8m

よさこい峠から尾根伝いに伊吹山へは随分昔に妻や娘を連れて冬に歩いた事があるが結構その時の記憶より現在は笹深くて遠かった。
16時43分伊吹山に着き今日の目的地「シラサ山荘」へのメドが付いてほっとしながら瓶ヶ森と西黒森を眺める。


伊吹山は瓶ヶ森林道の直ぐ脇にある為余りにもお手軽過ぎてあまり訪れる登山者は居ない。ところが冬場になり林道が閉鎖されると南
の寺川・白猪谷からシラサ峠を経由して雪の中この山に来るのが俄然面白くなる。以前スノーシューでやって来たがこの平凡な山頂手
前でどうしてもラッセルが出来ずに撤退した思い出がある。


17時07分再び瓶ヶ森林道に出て「四国山岳碑」のコーナーを回ってシラサ山荘横からシラサ避難小屋へ17時20分到着した。暗
くなる前に
裏の水場へ向かうが、コケ深い橋から眺めても水が澱(よど)んで流れが無い。こりゃダメだ〜〜

仕方なく営業中のシラサ山荘に水を貰いに行く事にした。玄関口で声をかけるが夕食時で忙しいのか誰も出てこない。入口を入った左
側に自動販売機があったのでそこで水2本を買って陽が沈んだ空に美しいシルエットを描く石鎚を見た後避難小屋に帰る。

  
よさこい峠のトイレ横を通って縦走路へ入る        この縦走路は中々の景色だ

  
美しいブナ街道だ                   石鎚が左手に見える


16時43分 伊吹山に到着、三等三角点名は「元山」(1,503.13m) バックは瓶ヶ森


   ここから見る瓶ヶ森は岩壁の要塞に囲まれているのがわかる

  
山頂からは石鎚方面が見える              子持ち権現山と瓶ヶ森の岩壁が見える

  
 シラサ峠コーナーの四国山岳碑             17時20分 シラサ避難小屋に入る

  
こりゃアカン〜〜〜シラサ避難小屋の水場 アウト〜  一泊目はお手軽な小屋泊り


      一日目の夕日は石鎚へ沈む


シラサ
避難小屋はテントを張る手間が省けるし、床が平らなので助かる。縦走最初の夕食は昼に食べたカレーが胃に堪えて簡単なスー
プで済ませて明日のスケジュールを思いながら寝る。



 

2日目(10月15日)
避難小屋〜子持ち権現山〜瓶ヶ森〜西黒森〜自念子ノ頭〜東黒森〜伊予富士〜寒風山   約11時間20分行動

直線距離:16.2km 沿面距離:16.8km 累積標高:3,560m


カシミールソフトを使ったGPSトラックログ図 シラサ避難小屋〜寒風山

 

縦走最初の朝だ。05時前に目が覚めて独り言をブツブツ言いながら出発準備をする。朝食はコーヒーと昨日西条駅で買ったパンだ。
今日の目標は笹ヶ峰までだが兎に角夕暮れ近くまで歩ける所まで行く事にしている。


シラサ避難小屋を05時45分ライトを点けて出発し山荘の林道へ出と少し明るくなって石鎚も見える。シラサ山荘の前からススキと
笹原の縦走路へと入る。東の空から太陽の出る場所が輝きうろこ雲の下側をそれぞれに朱く染める。やはり朝焼けと夕焼けは雲の存在
がその美しさを倍増させる。


瓶ヶ森林道が出来てから土小屋〜自念子ノ頭間はもうアホらしくて縦走路など歩く人は少ない。しかしながら林道と近いとは言え明ら
かにそれと隔絶されたこの空間はやはり縦走尾根登山道としての素晴らしさを十分に保っている。朝露でズボンが濡れて来たのでザッ
クからレインパンツを出して履く。日帰りならこんな面倒な事はしないのだが、夜テントの中で濡れたズボンは嫌〜〜。



     05時45分避難小屋を出てシラサ山荘前から朝焼けの縦走尾根に入る

  
子持ち権現の岩峰が現れる                       笹は夜露で湿っているが紅葉は美しい


子持ち権現山 (1,677m)

左手に木々の間から姿を見せる石鎚を眺めては笹深い縦走路を歩く。正面の紅葉樹の間から子持ち権現の岩峰が見える。この鋭い岩壁
を回り込んで07時30分子持ち権現の基部に着いた。
厳しい岩峰に似合わないヤワな山名だが、この山はその形が幼い子を背負った
様に見える滝=崖から名付けらたみたい
この岩峰は地質学的には礫岩という堆積岩らしいから浅い海で堆積し固まった石が隆起した
って事? う〜〜ん 山の成り立ちは我々の想像を遥か越えている。


ザックを下ろして鎖場に取り付く。初めてこの鎖場に来た時に高知の登山者から「ここの鎖を登っちょれば北アルプスばあ何ちゃあ怖
い事ないちや」と言われた。
確かにここの鎖は石鎚のお鎖と比べればいかにも頼りなさそうで、岩場も垂直に近い位立ち上がっており
足場も滑りやすい。
でも何事も経験であちこちのヤバい場所を歩いて来たせいで今はどうって事も無い。

山頂に07時45分到着して瓶ヶ森方面を眺めた後、裏手の権現さんにお詣りする。この岩窟に祀られているのは子授け地蔵ではなく
れっきとした修験道のシンボル蔵王権現である。以前裏側のホンガケ道を辿って鎖場をよじ登りこの山に来た事があるがやはり瓶ヶ森
と同じく修験の山である。


  
 左手には鋭い岩壁が並ぶ                         07時30分子持ち権現基部に到着
  
  中々の鎖場だ                              鎖場の途中から瓶ヶ森を眺める


 07時45分子持ち権現山に這い上がる

  
        子持ち権現の岩窟                      岩黒山からの縦走尾根を振り返る

  

08時10分鎖場の下りを注意して基部に帰り重いザックを又背負って瓶ヶ森へ向かう。上側の林道まで縦走路を這い上がり、瓶ヶ森
のトイレ広場まで林道を歩く。いつも水が出ていた広場の水は続く晴天で完全に枯れていた。


  
這い上がったら降りなきゃならない                  林道まで這い上がって子持ち権現山を眺める

瓶ヶ森への登山口を氷見二千石原方面へ少し入り瓶壺へ給水に向かう。縦走中の「命の水」も大切なのだが、私は左目を黄斑変性で視
力を失っており、残った右目も緑内障に罹っている為眼圧を下げる目薬を毎日さして、その副作用を避ける為に大量の水で目の周りを
洗わなくてはならない宿命だ。


09時瓶壺に着くと確かに水量はいつもより少な目ではあるが滾々と透明の水が上流の笹の間からわき出て瓶壺を満たしている。ここ
は石鎚山系で最高の水場だ。念のため浄水器で2L水を確保して目薬を差して顔を洗う。 あ〜〜 気持ちええ・・・
給水の為に縦
走路を外れる事は時間が勿体ないのだが、これはどうしても長期縦走には欠かせない作業なのだ。


  
08時36分 瓶ヶ森休憩所のトイレ前を通過             瓶ヶ森で給水の為瓶壺に向かう


      美しい白骨林と石鎚

   
    瓶壺に下りて行く                           漏斗(じょうご)、浄水器、水バッグの給水セット


瓶ヶ森(1,896.5m) 二等三角点 「亀ヶ森」 1,896.54m


瓶ヶ森は林道が出来る前は子持ち権現山と同様にアプローチが遠く大変な山だけに達成感のある場所だった。この山には西条の西之川、
東之川、更に大保子谷から登ったが結構大変だった。


奈良時代から笹ヶ峰と同じく石土蔵王権現を祀る修験道の山としても石鎚山より古い歴史を持っていたらしい。西側に広がるなだらかな
笹原の風景から男性的な石鎚山と対比されて女性的と表現されるが、この山の隆起準平原の周りは恐ろしい程の鋭い岩壁によって守られ
ている。


ちなみに隆起準平原とは地形輪廻(りんね)で言うと、原地形―幼年期地形―壮年期地形―老年期地形―準平原と辿った壮大な歴史の末
に、この準平原が地殻運動により再び持ち上がった地形を言い、奈良の大台ケ原などもこの仲間らしい。


男山登山口に帰って又更に重くなったザックを背負い急な傾斜を上る。瓶ヶ森へは近くに三方から登山道があり一般的には中央の氷見
(ひみ)二千石原から女山に登るのがなだらかで景色も良い。修験道の道を彷彿とさせる男山への急な傾斜を瓶ヶ森の南稜線に沿って
登る。右手に見える絶壁は決してこの山は女性的では無いと思わせるゾクっとさせる景色だ。


10時10分に男山(おやま)へ着くと年配の男女グループが居られて祠の石土古権現に向かって何か念仏を唱えている。子供の頃、
お寺の縁日へ行くと必ずこんな念仏を唱えて霊験あらたかな品物を売っている修験者の様な人が結構居たもんだ。

瓶ヶ森最高峰の女山(めやま)へは稜線伝いに20分程で着く。ここから氷見二千石原の彼方に見える石鎚は実に美しい。山頂付近に
雪が層になって岩を刻む姿の冬場は更に石鎚ファンになる風景を増長させる。


しばらく風を受けながら周りに広がる景色を眺めた後、再程のグループが男山から回って来たので入れ替わりで東尾根を下り、瓶ヶ森
林道近くにある吉野川源流碑へと向かう。


 
瓶ヶ森の西側尾根から男山を目指す                  男性的な岩山 瓶ヶ森・男山

  
   ドウダンツツジが真っ赤に染まっている               10時10分 瓶ヶ森・男山の祠に着く

  
瓶ヶ森の稜線 女山付近から男山を振り返る 奥に筒上・手箱   10時30分瓶ヶ森・女山の祠


      氷見二千石原と霊峰石鎚 ここが最も有名な石鎚展望所だ


                 瓶ヶ森・女山付近から東へ延びる尾根縦走路

  
      アキノキリンソウやリンドウの花も一人歩きの私に挨拶を交わしてくれる


      西黒森はいい形をしている上に秋はドウダンツツジやコメツツジに岩斜面が彩られる

  
   11時07分 縦走路分岐標識          吉野川源流碑 この南側の沢が一応吉野川の源流って事になっている様だ


西黒森 1,861m

瓶ヶ森から一旦林道近くまで下りると、今度は西黒森に向かって稜線が上って行く。瓶ヶ森は台形のデカい山塊だが、この西黒森は少
し尖って左右対称に稜線を持つ端正な形をしている。しかしこの稜線を良く見るとギザギザしておりやはり厳しさを持った山でもある。

こんな厳しい岩山にはドウダンツツジやアケボノツツジ、天然ヒノキ、モミなどがありこの時期は多彩な色に飾られる。

縦走路も変化があって厳しいが、その急な傾斜を上っていると前から芝犬が一匹下りて来て私を見て又ひっくり返して上って行った。
私の気配に気づいた主人に上でリードに繋がれた様だ。少し話をすると私より2歳程年配で石鎚の北壁を登ったり西沢を遡行したりする
土居の白石さんという人だった。後ろから女性が下りていたので「ご夫婦ですか?」と聞くと「娘です」と言う。確かに良く見ると肌が
若かった。すんませ〜〜ん 
この時のメモに「娘太モモ」と書いており後から読むと何のことやら分からなかったが、良く考えると
「娘・犬モモ」を間違って殴り書きしたものだった。


登山道分岐から山頂へは更に急な傾斜を10分程登る。12時00分やっとドウダンツツジに飾られた西黒森山頂に到着した。下りの登
山道はよく整備されており昼ごはんに昨日土小屋で買った三食焼き餅を一個食べながら歩く。すると山口県から来られた6人グループと
すれ違い少し話をする。明日は笹ヶ峰へ登るそうだが、どうも時間的に再会出来そうにないので「四国の山をありがとうございます」と
何となくお礼を述べて別れる。
12時35分自念子ノ頭基部へ下り着く。

  
 西黒森への稜線も一本調子ではない                  南面の岩は紅葉で美しい

  
   土居の白石さんと柴犬「もも」ちゃん                 白石さん親子〜〜  いいなあ 親子で山歩き

  
  西黒森山頂分岐                                12時00分西黒森の山頂に着く


    瓶ヶ森を振り返る  こちらから見ると昔のテント形をしている   奥に石鎚山が顔を覗かせている

  
   美しい紅葉の縦走路を歩く                       山口から来られた登山者 翌日は笹ヶ峰へ行くそうだ

  
 冬には雪原となる基部の笹原 奥に自念子ノ頭           12時35分 縦走路分岐標識へ下りる


自念子ノ頭 (じねんごのかしら) 1,701.5m  (三等三角点名「黒森」1,701.80m)

ここから暫く瓶ヶ森林道とほぼ平行に走る尾根に乗る。冬に歩いた時にも美しかったが、この時期はドウダンツツジの真紅と笹の緑がま
るで絵の様な美しいコントラストを見せる。
前から若くてかわいい女性が一人で歩いて来たので「綺麗ですねえ」(景色の事ですよ)と
声を掛けると「もう写真を撮り過ぎて足が進みません」と言う。同感 !


青空に綿雲が浮かんで下側の少し地味な自念子ノ頭を飾る。冬にテントを張った場所を懐かしく確認しながら13時25分山頂に立つ。
自念子ノ頭とは実に変わった山名だけど、れいほくネイチャーハント・ガイドブックによると“昔この山のササに実がなったため、それ
より自然子ノ高森とも名付けられ、俗名「中黒森」とも云われている(本川郷風土記より)”と書かれている。


ここにある三等三角点名は「黒森」であるからその点から考えると「中黒森」が妥当な名前ではなかろうか。いずれにしても瓶ヶ森林道
のお蔭で東黒森共々、地味な存在になってしまった山でもある。


山頂から東へなだらかなスロープとなりそのコル部が「自念子越え」と言われている。瓶ヶ森林道は「UFOライン」と呼ばれている様
だが、この辺りは石鎚山系の稜線部をハイウェイ(瓶ヶ森林道)が通っており霧に覆われる事が多い不思議な空間で、UFOが出ても不
思議でない。
縦走路はここで5分程林道部を歩き、その後東黒森山への登山道に入る。

  
  縦走路から自念子ノ頭方面                       縦走路から子持ち権現と奥に石鎚


          この辺りが一番のどかで紅葉が美しい縦走路だった


     いつも気になる石鎚山   手前はサメの背びれ・子持ち権現


   瓶ヶ森・雄山       瓶ヶ森・女山                 西黒森のトンガリ

  
  なだらかな山頂 自念子ノ頭  秋の雲が綺麗〜〜       13時25分 自念子ノ頭に到着 三角点名は「黒森」だ


自念子ノ頭より東側の縦走尾根を眺める 瓶ヶ森UFOラインに鞍部で合流 右手前から東黒森〜伊予富士〜寒風山〜笹ヶ峰〜チチ山


東黒森 1,735m

林道部から整備された登山道を30分も歩かない内に14時12分に着く。山頂につくと稜線部には薄いガスがかかって来たが西側に先
ほど歩いて来た西黒森と屋根形の瓶ヶ森が見える。進行方向の東側には伊予富士がすぐそこに迫り、西面に二本のザレた山肌をさらして
いる。東黒森は伊予富士のついでに足を延ばすマイナーな山ではあるが、南側に立派な支尾根を持っている。この南尾根は上瀬戸山や長
沢山などを経て東に湾曲しながら大橋ダムへ消える。


  
 東黒森の南尾根、 上瀬戸山    長沢山              13時45分 瓶ヶ森林道から再び樹走路へ入る

  
 縦走路に入るとそこはやはり石鎚山系の山だ            ここもドウダンツツジが美しい 正面が東黒森


   14時12分 東黒森の山頂に着く   西側からはガスが湧いてくる  自念子ノ頭〜西黒森〜瓶ヶ森が何とか見える


伊予富士 1,756m   三等三角点「伊予富士」( 1,756.18m ) 

伊予富士は南の高知県側、長沢山尾根辺りから眺めると秀麗な富士の形をしているのでその名が付けられたのだろうが、東側から見ると
デコボコのじゃばら怪獣でとても富士などと呼ぶのは気が引ける程デコボコで愛嬌たっぷりの形をしている。


縦走路は東黒森からはもう瓶ヶ森林道までは下りる事無く、コル部から伊予富士へと向かう。冬に天候が悪くてコルから瓶ヶ森林道へ下
りてトンネルが雪崩れて塞がれており苦労した事を思い出す。雪さえ無ければ東黒森から伊予富士は登山道もしっかりしており近い。

最初に見えていた北側のデコボコが南側のトラバース路になると隠れてしまいなだらかな山容となる。

14時55分なだらかな稜線を伝い伊予富士山頂に着く。この時間になるともう誰も居ない事はわかっていた。山頂は冬場は雪で覆われ
るので地表は削られて三等三角点の土台が出ている。ガスが湧いてすこし展望が悪くなったので桑瀬峠へと向かう。



                    東黒森から伊予富士への縦走路


  
   笹原の縦走路も紅葉がある                14時30分 お昼は歩きながらの土小屋でゲットした焼き餅


  
  伊予富士が次第に近づく                         歩いて来た縦走路、東黒森方面を振り返る


  14時55分 伊予富士に到着しザックを下ろす

  
 伊予富士を下る                                イヨフウロの残り花と紅葉
  

鷹ノ巣山の分岐から左へ下りるとブナやドウダンツツジが美しい。桑瀬峠に到着したのは16時07分だから目標だった笹ヶ峰はこの時
点で諦める。取り敢えずビバーク地は高い場所がいいので寒風山へと向かう。


  
冬に美しい霧氷となるブナ                         16時07分 桑瀬峠通過

寒風山 1,763m

寒風山は四国の中で四季を通じて最も登山者が訪れる人気の山である。元来、この山は寒風山トンネルの北側や南側から眺めるとわかる
様に実に武骨な岩山である。普通ならこの様な山容を持つ山は初心者向きでは無い。私がこの山へ登りだした頃には新居浜在住の橋本さ
んによって既にアルミ梯子やロープなどの整備が行き届いた山になっていた。


岳人が求める難所を極めて山頂に立つ達成感は犠牲となったが、代わりに初心者でも安全に冬場でも登れる登竜門としての役割を持った
山となった。
いきすぎた整備などで取り沙汰される事もあるが、山の魅力を色んなレベルの登山者に平等に提供すると言う点でこんな山
があっても良いのではなかろうか。


歩き慣れた登山道ではあるがいつもと違う重たいザックでヘロヘロになって登る。目の前に迫る紅葉風景は美しくさすが人気の山だと痛
感する。17時15分寒風山に着き、少し笹ヶ峰への縦走路へ未練があったが、思いとどまって脇の平たい場所でビバークする事にした。


  
  寒風山の南岩峰が霧に霞む                        伊予富士                西黒森・瓶ヶ森


            寒風山の前衛峰を美しく飾る紅葉

  
   寒風山のジャンダルム                            尾根部を振り返る

  
寒風山のブナは大きくないが味がある                   伊予富士方面

  
  寒風山の山頂は裏側に隠れている                  17時13分寒風山に到着 今日はここまで〜〜〜


雲海が西条方面の谷を埋め尽くし幻想的な夕暮れとなった。長期縦走なのでカメラの電池が心配でなるべく写真を少なくしようと思って
いるのだが刻々と変わりゆく黄昏についついシャッターを切ってしまう。



                     夕陽に焼ける笹ヶ峰とチチ山


               瓶ヶ森の北側に夕日が沈む

  
    雲海に浮くのは西黒森と瓶ヶ森                 縦走二日目はビバークテント モンベル・ドームシェルターII


      西黒森     瓶ヶ森      夕陽が沈むと空が焼けてきた


                    しじまが迫る直前に西の空が輝く


暗くなるまで景色を楽しみ、夕食は豪勢に白米にビーフカレーだ。普段お湯をかけて一発で出来るチャーハンや五目飯なのだが、カレー
の場合はフリーズドライの白米にお湯をかけて、カレーの入った袋を別にお湯で温めるので手間がかかり私の山食メニューでは初めての
登場だ。う〜〜ん やはりかける手間とおいしさは比例すると実感! 


笹ヶ峰まで届かなかった自分のふがいなさを感じながら就寝する。



3日目(10月16日)

寒風山−笹ヶ峰−チチ山−銅山川源流−冠山−平家平−三ッ森山−大座礼山      約12時間行動

直線距離:17.9km  沿面距離:18.44km  累計標高:3,544m


カシミールソフトを利用したGPSトラックログ図 寒風山〜大座礼山


初日はシラサ避難小屋に泊まったので今日は初めてのビバーク地での夜明けを迎えた。06時15分テントの仕舞をしながら東の空を眺
めると朝陽が地平線の雲間から顔を見せる。昨日の様な雲が無くシンプルな夜明けの風景だ。寒風山は景色の良い山頂を持つが、不満と
言えば瓶ヶ森が邪魔して石鎚が見えない事だね。


朝焼けの笹ヶ峰を見ながら06時25分出発する。寒風山から笹ヶ峰までは今ではポピュラーな縦走路となっており1時間半もあれば到
達出来る。途中で主な岩ピークが3つ程あり丁度良いアクセントとなっている。秋は笹原のコメツツジや岩場のドウダンツツジなどと共
に、冬は霧氷と共に歩けるいいコースだ。

  
  静寂に包まれた夜明け前                        06時15分太陽がお出ましになる

   
          南側が焼けて来る                        北側も焼けて来る
  


   さあ! 3日目のスタートだ 笹ヶ峰へ向かう  左は沓掛山 正面は笹ヶ峰 その右にチチ山    右奥に二つ岳

  
  わぉ〜  今日も紅葉の中を歩けるぞ                 橋本整備がここにも有る 

  
  寒風山を振り返る                              笹ヶ峰の南斜面を見ながら歩く

 
  笹の間にはアザミがチクチク                       笹ヶ峰基部にさしかかる


    寒風山〜笹ヶ峰の縦走尾根  正面奥が鷹ノ巣尾根



    高知のお山はようわからんけど ぎょうさん山だらけや


笹ヶ峰   一等三角点 「笹ヶ峰」1,859.60m点  

岩場を避けた右手のトラバース路からは笹ヶ峰の南面が眺められそのデカさに改めて感心する。縦走路の最後は左手の
トラバースとなり、西条から東予、高縄山系が眼下に霞んで広がり、少し振り返ると瓶ヶ森の衝立から解放された石鎚
が姿を見せている。


07時55分静かな笹ヶ峰の山頂に着く。立派な石積みの祠の中には金剛笹ヶ峰石鉄蔵王大権現=蔵王権現と外の右上
には大日聖不動明王像が据えられている。これぞ修験の山である。


蔵王(ざおう)権現」はご存知修験道の祖、役(えんの)行者(役小角えんのおづぬ)が吉野の金峯山で最も強力な
神仏の出現を念じた所「お邪魔しま〜す」と出てきた日本人向けの神仏で、早速記憶が薄れないうちに桜の樹でこの像を
彫った。右手に三鈷杵(さんこしょ)を持って高くかかげ、左手は剣印(刀の形)を結び腰にあて、右足を高く踏み上げ
ているシェーポーズ神である。つまり修験道のご本尊様の位置付けとなる。

一方、「不動明王」は真言密教の教主である「大日如来」の命を受けこの世の悪を絶つ役割の神仏で右手に悪魔を退治
する剣、左手に悪を縛る縄を持ち、背中の後ろがメラメラと炎が立っているあの石鎚ロープウェイ口にある空海お気に入
りの密教仏である。

双方とも悪を懲らしめる強い意志を持った怖〜い憤怒相をしている。



    笹ヶ峰の直下になって やっと石鎚が姿を現す


   07時55分 笹ヶ峰の山頂に到着   まだ元気〜〜

  
金剛笹ヶ峰石鉄蔵王大権現と大日聖不動明王が祀られている    沓掛山から傾山〜櫛ヶ峰へと続く北側尾根


笹ヶ峰はその名の通り一面笹に覆われた大きくなだらかな山で岩や起伏の激しい石鎚山系の中では異色の存在とも言える。この山は瓶ヶ森
と同じく奈良時代から本家石鎚山に先駆けて修験者が通った山であったらしい。大生院の正法寺がその別当寺で昭和初期に信者さんがこの
正法寺から蔵王権現2体を笹ヶ峰へ運んでいて途中でギブアップした事があり、今でもその権現像は黒森山の手前、堂ヶ平でマニアックな
登山者に拝まれている。


私が子供の頃、学校登山というものが盛んで笹ヶ峰の丸山荘が良く利用されていた。小学校の時に親父に連れられて初めて笹ヶ峰へ来てテ
ント泊をした事、中学校の時に全校登山で下津池から丸山荘に泊まり翌日新居浜に下山した懐かしい思い出がある。又、同じく中学校の時
に担任の青木先生に誘われてガキ大将仲間と笹ヶ峰、瓶ヶ森へ登り台風に会いテントから山小屋に逃げ込んだ事もあった。
今では何かある
と教師の責任が父兄から問われる時代となり、こんな先生と生徒が山に登る事自体リスキーだと敬遠されているのが残念だと思う。


笹ヶ峰からの展望は最高で特に冬場は雪も深く瀬戸内海から渡って来る北西風で山頂の丸太標識などに長いエビの尻尾が出来るのを楽しみ
に登ってくる。林道・寒風・大座礼線を利用する南尾根にはデカいブナ林がありこれも又笹ヶ峰の新たな魅力となっている。


笹ヶ峰の水場は丸山荘にあるので往復するとゆうに1時間以上かかる。給水は次の銅山川源流までそんなに遠くないので東隣のチチ山へ向
かう。
両山を挟むコルはもみじ谷分岐でここは丸山荘や西山越えを経由して沓掛山へのルートが北側に分かれている。


     振り返れば2日間歩いて来た石鎚からの縦走尾根が並ぶ


     他方 東を眺むれば これから進む県境尾根がず〜〜っとず〜〜っと続く  一体どうなるんだろうか?


笹ヶ峰は天狗塚、三嶺と並ぶコメツツジ紅葉の美しさで定評のある山だ  これが霧氷時には白いサンゴ礁となる


チチ山 1,855m  新居浜市の最高峰

紅葉谷分岐から急傾斜を喘いで08時50分チチ山に着く。この山頂には岩の上に祠があり笹ヶ峰から移された蔵王権現が祀られている。
広島から来られて前夜丸山荘に泊まったという男性二人が居たので記念写真をお願いする。


堂々たる標高を持ちながら名山「笹ヶ峰」の隣にあるばっかりにその付属ピーク扱いにされて四国百名山や山渓愛媛分県ガイドにも載って
いない不遇の山だ。
香川県に持って帰ればもっとチヤホヤされる事だろう。

山名は隣の大らかでまろやかな笹ヶ峰を「母(なる)山」とみたててこの男性的な山塊を「父山」と呼んだとも言われている。乳山とも記
されるがその根拠は不明である。
寒風山方面からこの山を見ると瓶ヶ森の従弟の様に屋根形をしている。しかし北側、獅子舞の鼻からみる
チチ山は秀麗で雪を抱く姿は威厳に満ちている。

江戸時代にはこの山の北面が笹ヶ峰の宿より別子銅山の精錬などに使う木材や炭の道として利用されていた。

左手に見える沓掛山〜黒森山から続くシャクナゲの尾や新居浜の街、更には赤石山系を眺めて尾根の南側に付けられたトラバース道へ下り
る。笹原の斜面に付けられた登山道は笹の茎や根でとても歩きにくい。


  
  もみじ谷のコルへと下る                         チチ山の南斜面も紅葉に染まっている


    沓掛山、黒森山から新居浜へ向かって下る「シャクナゲの尾」


             っここまで来ると赤石山系が姿を見せる 

  
   笹ヶ峰方面を振り返る                          08時50分 チチ山山頂に立つ

  
  チチ山南斜面のトラバース路へ向かう                 新居浜最高峰チチ山の尾根より新居浜の街を眺める
  

09時30分「チチ山の別れ」に着く。この場所は石鎚山系の主稜線から北側へ稜線が分かれて赤石山系、法皇山系へと続く交差点で
ある。現在はこの下にある大永山トンネル南口からチチ山の分れを経由して笹ヶ峰へピストンするタフなルートがポピュラーになりつ
つある。
この分岐点より東側が石鎚山系のメインルートから少し外れた物寂しい樹林帯の予土県境尾根となる。

なお、現在この山域の南側には寒風山から大座礼山(大田尾越)まで大規模林道の延長工事が行われているので近い内に冠山、平家平
大座礼山の縦走が便利になるかも知れない。


  
09時30分 チチ山の別れ                         チチ山の別れから赤石山系へのルート

  
秋らしくススキ街道を冠山へと向かう                   樹林帯に入ると一ノ谷分岐は近い

尾根を下るとすぐに「一ノ谷越」標識があり、ここから南の高知県側、一ノ谷屋敷へと登山道が下る。さらに尾根を進むと10時10分
「一ノ谷越」のコル部に着いた。昔はここから南の一ノ谷へ下る山道があったと思われるが現在は北側のナスビ平を経て住友フォレスター
ハウスのある中七番へ下るルートしかない。従ってこの地名はややこしいので「中七番越」と改名した方が良さそうに思える。


  
10時10分 一ノ谷越に着く                        ナスビ平へと下る

銅山川源流碑の水場へ

さて、笹ヶ峰で水場をスキップしたのでここで補水しなければ先に進めない。今回の様な長期に渡る縦走では多少時間がロスしても水場へ
下りて水を確保しなければならない。


「一ノ谷越」にザックを置いて給水道具の入った袋を下げて北側の登山道を15分程下がり銅山川源流碑がある沢で補水する。途中の登山
道はザレた沢筋があり注意を要するが危険という程でもない。以前この沢(平家谷)を遡行して近くまで這い上がった時にキレンゲショウ
マの群生があり感動した物だった。沢歩きや岩歩きを普段からしていると多少登山道が荒れていても驚かない。源流の新鮮な水を持って紅
葉の輝くトラバース道を一ノ谷越へと帰る。顔を洗ったり体を拭いた浄水器で補水するのでこのロスタイムは1時間を超えた。


  
紅葉がム〜チョきれい〜                          ちょっとザレ場の沢付近は気を付けなければ危ない

  
銅山川源流付近は黄葉一色                       10時35分 銅山川源流碑に到着

  
  銅山川源流は水量は豊か                 下はザレ場、上は紅葉 上を見て下も見て忙しく一ノ谷越へ帰る

 
冠山 1,732m

11時20分デポしたザックを背負い冠山へと向かう。南斜面、高知県側は笹原となり、北側は樹林帯の上りを冠山の岩塊に向かって歩く。
手前の黄葉樹林帯の上に聳える岩にドウダンツツジの赤が空との境を染めている。

どの山も見る方角によって形が異なるものだが、この冠山は寒風山・伊予富士登山道から見る姿が裾野を広げて美しい。赤石山系からチチ山
の別れへ出る尾根筋からはコブ鯛の様にユーモラスな形をしている。


12時05分山頂への岩場を這い上がると二人の若者がいた。聞くと二人は新居浜の山仲間で最近山歩きを始めたそうだ。中七番から鉄塔
道を使って平家平へ上がり、一ノ谷越からなすび平を経由して中七番へ下るそうだ。


この尖っている岩山は笹ヶ峰・南尾根や寒風山・登山道から見ると惚れ惚れする位美しい形をしている。灌木に覆われているが少し移動す
れば石鎚方面や平家平・大座礼山方面が良く見える。


  
  紅葉街道を冠山へ登る                         ライオンに見える冠山


      冠山の岩峰に向かう

  
山歩きを始めたばかりのフレッシュな新居浜人             写真を撮って貰う


    冠山から西を眺める  石鎚から瓶ヶ森、西黒森、伊予富士、寒風山、笹ヶ峰が見える


   これから進む東側 平家平へのなだらかな稜線と大座礼山が待っている

平家平(へいけだいら) 1,692.69m  三等三角点「平家平」

冠山から平家平を縦に眺めると近くに見えるのだが、いざ縦走路に入ると結構ピークが存在し遠い物だ。コメツツジ、ドウダンツツジと笹
原のコントラストを楽しみながら13時05分平家平の山頂標識に着いた。子供の時に家族で東平から籠電車に乗って坑道を日浦へ出て、
雪をかぶって真っ白い山を指さして「あれが平家平だ」と親父が言ったのを覚えている。その時に東平で同年代の子供達が自作の竹スキー
で滑っていた事も兄弟が集まった時に話題になる。歳のせいか近頃は子供の頃親父にあちこち連れて行って貰った事をしきりに思い出す様
になった。


  
  冠山を振り返る                               平家平も結構稜線を登る


    平家平の西端から縦走路を眺める  正面が冠山 一番奥に石鎚が見えるぞ

  
冠山の右側「チチ山の別れ」の地形が良く分かる 奥に沓掛・黒森    平家平は当然平らな場所なのだ 

  
   平家平から石鎚山系の樹走路尾根ピークが顔を出す


   北側に絶えず赤石山系が並んで付いてくる


さて、数年前にマーシーさんと三ッ森峠からスノーシューでこの平家平へ苦労して登った来たが、そのルートを反対に下る。登山道は鉄塔
もある関係で広く刈り払われており歩き易い。13時40分鉄塔分岐に着く。ここから左右に愛媛県側と高知県側にそれぞれ平家平登山道
が下っている。


鉄塔巡視路から少し下がると鉄塔があり、そこからの道が少し不安だったが尾根に沿って十分な道が整備されていた。恐らく三ッ森峠にも
鉄塔があり、この間も巡視路として整備されているのだろう。少し背丈のある笹も出て来るがブナなども結構あって美しい尾根道だった。
何せマーシーさんと歩いた時は雪が深くて尾根道は枝が邪魔して歩きづらかった記憶がある。


14時35分見覚えのある三ッ森峠に下り立った。峠でザックを背負ったまま座り込んで足を延ばして水を飲む。私は一人で山を歩く時は
昼食休憩などは取らない。歩きながらポシェットから行動食を出して食べる。今日も朝から行動食を少し口に入れただけだった。


  
  三ッ森峠へ下る                               平家平を時々振り返る

  
 13時50分鉄塔を通過                           カエデの紅葉越しに赤石山系

  
  色んな形のブナがある                          岩場を迂回した縦走路

  
  14時35分 三ッ森峠に到着して少し腰を下ろす

三ッ森山  1,430m  三等三角点「西三森」(1,429.55m)

三ッ森峠から山頂は地図で見ると近いのだが、標高差が200m以上ありザックを背負って這い上がるのはとてもキツイ。以前マーシーさ
んと大座礼山から逆に三ッ森山〜三ッ森峠へ歩いた時は下りだったのでそのしんどさは感じなかった。ここはアケボノツツジ、特に白いア
ケボノが見られるので春は人気の山となる。紅葉の細尾根を上り15時20分三ッ森山に着く。天気が良いのでまだ明るいが秋の日暮れは
早いので先を急ぐ。


  
鉄塔の横を上がっていく登山道                      岩場もあるが歩き易い


    15時20分 三ッ森山に着く   ここから大座礼山は遠い〜〜   (約3時間かかる)


大座礼山 1,587.60m  二等三角点「大座礼」

三ッ森山から大座礼山までは4.4kmあるらしく時々その距離標識が現れる。尾根道は地図上は比較的なだらかに見えるのだが、やは
り幾つかのピークが存在し急な斜面をトラバースする場所もある。しかしここも鉄塔がある為か概ね尾根道は整備されており基本的には
スズタケと自然林、岩場にはシャクナゲというパターンだ。16時10分ロープが敷設された岩場がありここは明るい内に通過出来て良
かった。


16時55分三ッ森山と大座礼山の丁度中間の目安になる鉄塔巡回路分岐に着く。右側(高知側)へは「大平」方面、左側(愛媛側)へ
は「筏津」の標識がある。ここには三ッ森山から2.4km、大座礼山にはあと2kmと記されている。やっと残り半分以下になった。
右手に大座礼山が木々の間から見えるが随分遠い様に感じる。平地の2kmと山での2kmは全く距離感が違う。陽が沈み歩いて来た石
鎚方面のシルエットが美しく三日月の下に現れる。


ヘッドランプを頼りに歩き18時08分県境尾根分岐に着く。ここから大田尾越まで斜面を下れば早いのだが、第一エードステーションは
大座礼山を大きく回り込んだ登山道沿いに置いてある。


大座礼山の山頂は予土県境から南東に400m高知県側に入った所にある。先程から辺りは真っ暗だがここは最低でも大座礼山の山頂まで
は行こうと考えながら歩いて来た。最後の400mは長かったが18時30分やっとこさ大座礼山の山頂に着いた。


大座礼山は南側にある大きなザレ場から付いた名前らしいが、果たしてこのザレ場を確認した人はいるのだろうか。現在寒風山から高知
県側をこの大座礼山まで林道工事が進んでいるので近い内にこの林道からザレ場を確認出来そうだ。


何と言ってもこの山の目玉は樹齢300年と言われる大ブナの存在だろう。私が初めてこの山へ行った時にはブナは全員元気で何か不思
議なパワーを辺りに漂わせていた。しかし、最近手前の2本が倒れたり枯れたりして残念だ。残ったブナ達との対面は明朝の楽しみだ。


山頂部は比較的平らなのだが岩が表面に出ておりテントは張れない。山頂から少し縦走路へ戻りスズタケが刈り払われた適当な場所でビ
バークをする。今日も寒風山から良く歩いたが目的の大北川源流の第一ベースキャンプへは届かなかった。

お湯を沸かして簡単な夕食を済ませて幻想的に輝く星を眺めながら寝る。


  
基本的ンは歩き易く整備された尾根道だ                鋭いピークがあるのでアップダウンもある

  
15時56分 三ッ森山から丁度1kmの標識              16時08分 ワイルドな岩場を尾根に這い上がる

  
   時々ブナが現れスリスリしながらタッチする        16時40分三ッ森山から2km う〜〜ん 大座礼山はまだ遠いぜよ

  
16時55分 鉄塔巡視路分岐 南北にそれぞれ保線路が延びる  少し大座礼山が近づいたかな?
北に筏津、南に大平への標識あり

    
17時15分 大座礼山まで1.4kmときたもんだ             夕陽を浴びる岩壁


   17時56分 三日目最後の景色を眺める

  
18時08分 県境尾根分岐                        18時30分やっと大座礼山の山頂に辿り着く



4日目(10月17日) 約10時間40分


大座礼山−大北川源流ベースキャンプ(食糧補給)− 大田尾越−東光森山−野地峰

直線距離:12、805km、  沿面距離:13,300km 累積標高差:2,920m)

朝05時過ぎに起きてテント内の整理をボケた頭と体でダラダラと行う。06時頃から辺りが少し明るくなり始めたので外に出ると頭が
すっきりしてテントの片付けはテキパキと出来る。

結局テント泊とは全て自分でやらなければ物事は先に進まない環境だから嫌がおうにも自立訓練になると期待したい。少し登山道を下が
ればデポした食糧にありつけるので朝食は抜きだ。
06時20分大座礼山の山頂へ出て朝日を眺める。山頂は結構平らなのだが地面に岩
が沢山出ておりビバーク地としては不向きな場所だった。


山頂から15分程下ると大ブナが現れる。昨夜無理して食糧デポ地まで進まなかったのはこのブナの姿を見たい事も理由の一つだった。

山を歩くと沢山の大きな樹に出会うが、その中でもブナの存在は特別である。何故だか良くわからないが、恐らくこのブナは誰が見ても
これはブナの樹だと断言出来る事もその人気のベースだと思う。色白の幹にほどほどのコケ模様、枝を広げた美しい容姿。風の無い場所
ではすくっと細身で空に伸びる。風の強い所では低めで枝を広げる。最近付けられて虎ロープに沿って朝日に輝くブナの葉っぱを眺めな
がらブナ街道を進む。


この中で一番姿が美しかったブナの周りに事件現場の様なロープが張られている。その事件とは周りのブナが沢山の葉っぱを付けている
のにこの被害者には一枚の葉っぱも無い。
私が山歩きを始めた頃、登山口から土を運んで根の回りに振りまいた後、懐に抱かれたブナだ
けに残念な姿だった。


この下側にあった大きな枝が折れていたブナはもうその立ち姿は無かった。それでも倒れてもなお森の輪廻の役割を果たしている。大し
たもんだ。
さて、ブナの感傷に浸った後は第一エードステーションに向けてまっしぐら〜

07時井ノ川越えの三叉路に着き登山道はそれを左折する。ここに標識があり大座礼山1.0km、登山口1.5kmと記されている。
その三叉路からトラバース道となりこれが結構長く感しる。大北川源流の沢筋に07時30分着いてまず給水作業を行う。綺麗な沢でも
一応マヨネーズの容器みたいな浄水器を通して採水するので結構手間がかかる。
そこからも尚木橋などを渡り下流部へ向かう。

  
 モンベル・ドームシェルターII                      06時20分 朝日を浴びた大座礼山の山頂
 ベースキャンプの袋は靴の夜露濡れ防止用に使う

  
 今から進む東側の県境尾根を眺める                   待望のブナ街道に入る

  
やっぱり夜にここを通らなくて良かった                  色んな形のブナがある


  まだ元気に頑張っている大座礼山のブナ達

  
 とっくり型のブナもある                      一番お気に入りたったブナも最後を迎えている 何歳だろう?


   
07時03分 井野川越の分岐を通過 ここを左折する          朝日を浴びた黄葉が美しい

  
大北川源流が近づくとザレ場が出てくる            源流部(上部)で補水する 浄水器はマヨネーズと良く似た形だ
  

大北川源流・第一ベースキャンプ

08時過ぎに食糧を近くにデポした渡渉点に着き、少し下側にある第一ベースキャンプ地の平地にザックを下ろす。

さて、そこから斜面を相当駆け上がり木に括りつけた食糧ザックの場所へと向かう。登山道からは全く人間には見つからない場所で、地
上から1.5mの高さに分厚い布製のザックをビニールで覆い木に括りつけているから鹿や猿にはその中身奪取は無理。この状態で唯一
食糧奪取可能な動物は熊しかいない。この辺りには熊は先ず居ないので99%安心だった。万が一このデポ食糧が荒らされていたら熊が
この辺りに居る証明にもなる。
案の定ザックは以前置いたままの姿でそこに在った。

この食糧入りザックを沢筋の第一ベースキャンプへ運んで一人パーティだ。頑丈に梱包されたお宝袋を開け中に更に厚手のビニール袋で
分別された食糧、着替えを取り出す。う〜〜ん至福の瞬間!


ざっとした性格なので中身のリストなどは作らず一体何を詰め込んだのかうる覚えだ。カップ麺は山食としては食べやすくて理想的なの
だが容器が嵩張り食べ終わってもゴミが大きいので長期縦走では最大の弱点となる。ここには確か嵩張る物と重い食糧を置いた筈。それ
と沢水とは違ったジュース類ときたもんだ。


先ずお湯をバーナーで沸かしながら食糧を取り出す。有るある!私の大好物フルーツ牛乳寒天、これは賞味期間が意外と長いので良い。
退職後よく買い物を頼まれる事が多く、スーパーでパンの賞味期間が短い事を初めて知った。ビン入りの栄養ドリンクをグビっとやって
フルーツパーラーを飲む。在庫を考えなくて飲み食いが出来る至福の時だ。


ラ王は槍ヶ岳の山頂でのテレビのコマーシャル取りで登山者の登頂を規制してブーイングを受けたいわくつきのカップ麺だが、高カロリ
ーなので買った事も無かった。誰も居ない第一ベースキャンプで思いっきりズルズル音を立てて食べる。濃い味が水分と栄養分に枯渇し
た体に染み渡る。


天国の様な第一ベースキャンプで荷物の入れ替えや食事、ゴミや余った食糧の再デポなどであっという間に2時間も過ごしてしまった。

09時40分大座礼林道に下りる。下見の時にこの林道を寒風山方面へ歩いたが延長工事がだいぶ進んでいる様だった。林道を下りなが
ら次に進む尾根を眺める。東光森山から野路峰までは名前の付いた山が無く、幾つかの無名峰が並ぶ地味な歩きとなるのだ。



  
 08時00分 大北川の源流渡渉地点                登山道から相当斜面を這い上がった場所に食糧をデポ    

  
これだけしっかり縛っておれば猿でも奪取は難しいぞ         無事食料を回収して第一エードステーションに運ぶ

  
わ〜〜い わ〜〜い 嬉しいな〜〜                   生まれて初めて高カロリーのラ王を食べる

  
09時40分大座礼山登山口の林道に下り着く            向かいにこれから登る東三森山が見える

 
  東光森山から野地峰まで続く名も無き多くのピーク達よ  待っててね〜〜 

石鎚〜剣山縦走の核心部、大田尾越からの縦走は第二章に記する事に・・・・・



石鎚ー剣山 単独無支援縦走の概要は   ここ  

第二章 大田尾越〜土佐岩原は   ここ

第三章 土佐岩原〜剣山は     ここ

    
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