平成26年9月14日〜16日 南アルプス南部縦走

双子の兄弟で聖岳〜赤石岳〜荒川三山を巡る旅


この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)を使用したものである 
カシミールソフトを利用したPGSトラックログ図  南アルプス南部縦走 (聖平〜聖岳〜赤石岳〜荒川岳〜悪沢岳〜千枚小屋)

プロローグ

私は双子の兄弟という多少特殊な人間関係におかれている。双子というのは世間で思われているほど何もかもそっくりと
言う訳でも仲が良いという訳でもない。事実長崎にいる研治は理科系に進んだし私、公治は文科系だった。そして普段は
お互い連絡など決して取らない。


まあ同じDNAを持っているのだから性格や体質、嗜好は普通の兄弟以上に似ているのは仕方のない宿命だ。若い時は同
じ人間がこの世に余分にいる事が多少嫌で、その為に自我が発達して自意識も過剰気味になったのかも知れない。

このように多少お互いを少し避けながら別な道を歩んで来た筈だったのだが、歳を取ってみると二人とも何となく山を歩
いていた。


2年前に二人で南アルプスの白根三山(北岳〜中岳〜農鳥岳)を歩いた。利点は大体同じ体力なのでペースが合うのとお
互い写真を撮るのが好きなので歩行の時間配分も違和感がない事だ。

日本百名山には年齢や費用の面で難しいので目標を3千メートルを超える山21座制覇に設定して南アルプスの山5座が
残っている。通常、この山域は赤石岳と荒川三山の縦走が妥当な線なのだが地図を見ると聖岳、赤石岳、荒川三山のセッ
トなら周回可能だ。


この縦走で聖岳(3,013m,赤石岳(3,120m,荒川中岳(3,083m,悪沢岳=荒川東岳(3,141m)の4座を一挙に歩く事が
出来るのだ。
,

当初、塩見岳へ足を延ばす事も考えたが荒川三山から相当離れているので日程的に無理だった。この山は来年に置いてお
こう。



周回方向は?

さて、次の小さな課題はどちらから周回するかという点であった。この山域は大倉財閥の東海フォレスト(株)の所有地
なので畑薙(はたなぎ)第一ダムからはこの会社が運営するマイクロバスを利用しなければならない。ところが、聖岳は
この会社の管轄外の為、聖岳から下山すると東海フォレストのバスは上りしか利用出来ず、椹島へ一旦戻らなければなら
ない。


そんな理由から聖岳〜赤石岳〜荒川三山〜椹島へと周回する事にした。

この東海フォレストのバス利用は無料なのだが、どこか一か所で山小屋に泊まらなければならないルールがある。従って
完全テント泊ってのが無理なので最終日の千枚小屋を宿泊場所と漠然に決める。


次の課題はサービスエリアに4日も車を置けるのか?

9月13日10時30分岡山の吉備サービスエリアで長崎の研治と合流。ここで車中泊がし易い研治の車で登山口まで行
くことに。


ここで問題なのが、上りSAに置いた私の車を帰りにどうするかって事だった。4日間も果たして吉備SAに置いて、す
んなり岡山の高速を下りる事が出来るのか?


結論を先に言うとそれは可能だった。帰りに吉備サービスエリア下り線まで研治の車で入り、そこから空身でフェンスを
乗り越えてSA外に出て反対側の上り線のサービスエリアに側道の橋を渡って入り車に乗り込む。そして岡山インター上
り線で出る。その際、ハイウェイカードでは不審車と見なされバーが開かないので、一般出口へ行く。しかしここには現
在係員が居らずインターホーンで応対してもらう。


4日前に坂出インターで入り、吉備SAで他の車で旅行して今日帰って来たと言い、指示に従いハイウェイカードを所定
の場所に入れるとデータを読み取り、係員がバーを開けてくれた。

岡山インターの下り線に入り直して吉備SAの研治の車から山道具を移し替えてバイバイってな具合でした。マナーの点
では問題が色々ありますが岡山インターチェンジ付近に適用な駐車可能な空地も無くこんな方法を取らざるを得ないのが
現実だ。



静岡インターで高速を下り安倍川沿いに井川ダム経由になったがナビ頼り過ぎて道路が不通箇所に迷い込むなど紆余曲折
がありながらも夜中に畑薙第一ダム駐車場に到着する。

すると広い臨時駐車場はもう満車状態でグルグル回ってもスペースが無い。私が車から降りて駐車場の隅々を調べてやっ
と1台スペースを見つける。ここで後部座席で仮眠する。



9月14日(日)〜9月17日(水)南アルプス南部縦走の行程

第1日目(9月14日)
畑薙第一ダム駐車場〜バスにて大井川・赤石ダム湖登山口〜聖沢吊橋〜聖平小屋


第2日目(9月15日)
聖平小屋〜小聖岳〜前聖岳〜奥聖岳〜兎岳〜小兎岳〜中盛丸山〜大沢岳〜百闢エ山の家(野営場)

第3日目(9月16日)
百闢エ山の家野営場〜百阨ス〜赤石岳〜小赤石岳〜大聖寺平〜荒川小屋〜荒川前岳〜荒川中岳〜荒川東岳(悪沢岳)〜丸山
〜千枚岳〜千枚小屋


第4日目(9月17日)
千枚小屋〜椹島〜バスにて畑薙第一ダム駐車場



第一部

 

第1日目 平成24年9月14日(日)

畑薙第一ダム駐車場〜バスにて大井川・赤石ダム湖登山口〜聖沢吊橋〜聖平小屋

 

朝06時過ぎに起きて登山の準備をする。バスの始発は08時だが、この登山者の多さから恐らく臨時便が出るだろうと
07時頃思い早めにバス亭へ上がる。すると案の上大勢の登山者が列を作っているが車の台数程ではない。恐らく多くの
登山者は前日の土曜日にバスに乗って出発したのだろう。

 
   畑薙第一ダム臨時駐車場 満車状態だ       07時30分東海フォレストの送迎バスが到着

07時30分マイクロバスが来て少し待った後登山者が乗り込む。運転手は私より年配だから東海フォレストの大型パル
プトラック運転手をしていた退職者でシニア再就職者だろうかとか勝手に想像する。いつも同じ冗談で登山者を笑わせて
いる様な手慣れたジョークを飛ばしながら大井川に沿ったガタガタ道をうまく運転していく。


08時40分聖岳登山口にて下車する。ここで下りるのは他にトレランの様な軽装者1人とカップル位で殆どが椹島へ向
かった。
登山口には別な聖岳専門の井川観光協会がバス便がありそれを待つ下山者がバスを待っていた。

 
      08時40分頃聖岳登山口に到着                針葉樹林帯に続く聖平への登山道 最初は少し急斜面

さて、天気も良いし最高の南アルプス縦走に気合が入り08時50分登山口を出発して針葉樹林帯へと入って行く。09
時30分グレーチングの鉄橋を渡り、その後も整備された登山道が続く。最初少し傾斜を上ると後は聖沢に出会うまでは
標高差の緩やかな登山道が続く。静岡県山岳遭難防止対策委員会と言ういかめしい組織の矢印標識などもあり、谷筋の細
い横掛け道には鉄パイプで手すりが設置されている。この辺りの植林にはドイツトウヒという説明版が見られた。


  
   09時28分 グレーチング橋を渡る                       随所に矢印や標識がある

  
  沢筋の危険個所には鉄パイプで整備                     その後も整備された横掛け道が続く


10時05分「聖沢吊橋」と言う聖沢に架かる大きな吊り橋を渡る。暫くして登山道は尾根筋へと進むので高低差が出て来る
と岩やシャクナゲが現れる。しかしこの山域は雨が多いので全体的には豊かな緑に包まれている。


11時00分聖平小屋まで180分(3時間)の標識があった。あと3時間程かかると覚悟するが、先ほどから研治の足が攣
り出し苦しそうである。この所仕事で忙しく全く山歩きから遠ざかっているらしいが、ちょっと早すぎるトラブルだ。
12時
になると右手には沢を挟んで聖岳東尾根が見えだすが稜線部は霧が立ち込めて見えない。


  
       10時05分 大きな吊り橋を渡る                 10時30分 岩っぽい登山道になる

  
     11時00分 聖平まで180分の標識あり                   そこそこ歩き易い登山道


12時30分今度はトラバース箇所に大き目の吊り橋がありこれを通過する。キオン、ミソガワソウ、サラシナショウマ、ク
サボタン、トリカブトなどがザレ気味の斜面に咲いている。厳しいザレ場の沢筋にはロープが張られたりグレーチングの橋が
渡されていた。


12時45分ザレた沢筋から樹林帯へ入る日当たりの良い場所にはオヤマボクチ、オニアアミ、トリカブト、メタカラコウな
どが咲いており研治もしきりにカメラを向けている。


   
  12時30分 崩壊斜面に付けられた吊り橋を渡る                   ミソガワソウとキオン

  
         サラシナショウマ                               ミヤマシシウドと登山道

  
             クサボタン                          12時33分 ザれ場を通過

    
            トリカブト                              フジアザミ

  
花の写真を撮る研治  メタカラコウ、トリカブト                       オニアザミ

  
          登山道の風景1                                  登山道の風景2

13時35分右手下に大きな滝が見えるからここが滝見台だろう。向かいの東尾根は相変わらず天辺は霧に包まれて見えない。
ここで研治から何度目かの足が攣り休憩する。恐らく久しぶりの重たいザックが原因と思われたのでザックの中の共同装備テン
トを引き取る事にした。初めから私が持っていたら良かったと反省。

ここで後から追いついたカップルが研治の様子を見て心配してくれ恐縮する。このご夫婦にはテン場と聖岳山頂で再会する事に
なる。


13時45分からワイルドな整備道が続き研治もトボトボと付いてくる。まあここまで来れば引き返す事も出来ず取り敢えず
聖平まで行って様子を見る事にする。
私も足が攣る体質なのであの痛さは想像が付くし、これでよくマーシーさんの足を引っ
張ったものだ。
今は無理をして歩かなくなったので足が攣る事も無くなった。結局は重たすぎるザックや早すぎるスピードが
足を攣る原因だと思う。



                  13時37分 滝見台から滝を眺める

   
      足が攣った状態で頑張る研治                        トボトボと丸太橋を渡る

14時00分聖平まで1.8km、80分の標識がありホッとする。地図を見ても等高線がなだらかな地形なので楽になる。
相変わらず草地にはオニアザミやサラシナショウマが見える。14時07分岩場の絶壁の上に殉難者の慰霊碑があった。こん
な一見何でもない様な場所でどんな状況でか命を落とし家族を悲しませているんだなあ。

相変わらずキオン、オニアザミ、トリカブトが多い登山道を進む。

  
         沢の左上側に続く登山道                    14時02分 聖平小屋まで80分

  
    こんな場所に殉難慰霊碑がある                            キオン、オニアザミ

聖岳と上河内岳の鞍部が聖平で、この平らな地形部でも標高が2,300m以上あり聖沢の分水嶺となっている。だから聖平
が近づくにつれて小沢が現れる。下側に14時30分少し深めの沢にグレーチング橋がかかっておりこれを渡り、沢を左手に
見ながら歩く。


この辺りも増水時荒れる様で鉄の橋がグニャグニャに曲がって沢に転がっている。14時46分トリカブトの咲く沢に架かる
グレーチング橋を左に渡る。
15時00分最後の橋を渡り聖平の野営地に着いた。研治もホッとした事だろう。

 
  14時28分 グレーチング橋が前方に見える       流木で鉄橋が壊れている

 
   もう聖平は近い シラビソ林           14時46分 又グレーチング橋を渡る

  
   トリカブトは渓流に似合う             最後の橋を渡って聖平小屋に着く

早速小屋に行ってテント場の使用料を払って設営にかかる。私は初めてのテントなので細かい作業は研治に任せる。ニーモ・
オビ2PテントはY字型ポールでインナーテントを立ち上げ、フライを被せる段取りになっている。ポール2本をスリーブに
入れて交差するタイプより設営に慣れが必要だ。二人用にしては足元が狭いがフライが大きく両側に入口が付いているので出
入りに便利だし、フライの中に荷室(前室)が利用できる。


テントの外で夕食を作っていると滝見台で会ったご夫婦が「その後足は大丈夫ですか?」と声をかけてくれた。ちょっとした
事だけど嬉しい山の友情だ。後半のなだらかな歩きで研治の足の様子も落ち着いた様で少し安心した。


  
       ニーモ・オビ2Pのインナー                      外張りを張ったらこんな形 聖平の野営場

インナーの居住空間が狭いと思われたニーモ・オビ2Pであったが上半身部分は結構広いので快適に寝る事が出来た。



第2日目 平成24年9月15日(月)

聖平小屋〜小聖岳〜前聖岳〜奥聖岳〜兎岳〜小兎岳〜中盛丸山〜大沢岳〜百闢エ山の家(野営場)

朝5時頃目を覚ましてお湯を沸かして朝食をとる。南アルプスは水が豊富なので余分な水をそんなに担がなくて良いの助か
る。
06時になって小屋の左横に続く登山道を針葉樹林帯を抜けてコル部に向かう。

 
聖平小屋と上側のテン場 水場は左側にある          小屋の左手から登山道が続く

06時15分コル部に着くと木道となるがどうも鹿害に遭った様な荒れた草地に出る。鹿ネットだらけの分岐標識には聖岳
2.4km 160分とある。ここから約3時間をかけて聖岳に登る訳だ。南東方向には樹木が多い南岳(2,702m)
と岩っぽい山頂部を持った上河内岳(2,803m)が見える。

  
荒れたコル部に木道が続く 向かいの上河内岳      06時17分 峠の標識 聖岳まで2時間40分

聖岳方面の展望は手前の傾斜に隠れてまだ見えない。なだらかな草地にはウメバチソウ、タカネマツムシソウ、ホソバノヤ
マハハコ、トリカブト、イワインチンなどが咲いている。鹿柵の説明書があってそれによるとかつてこの辺りはニッコウキ
スゲの大群生があったが鹿に食べられて絶滅した。そこでこの辺りを柵で囲って植生の復活を調査しているとの事だった。
日本全国この鹿害の問題は草花愛好家にとって深刻だ。


右手、針葉樹林帯の向こうに聖岳と思われるピークが見え出した。

  
           タカネマツムシソウ                         ホソバノヤマハハコ

  
  ニッコウキスゲ植生回復の為の鹿ネット                            ウメバチソウ


                       聖岳が頭を出す

  
              イワインチン                                 トリカブト

06時45分西沢渡(にしさわんど)への分岐「薊(あざみ)畑分岐」があり、ここから便ガ島、易老渡登山口へ登山道が
続いているらしい。


やがてダケカンバの美しい斜面になり気分がすこぶる良い。マルバタケブキの横を歩く研治の足も調子が戻った様だが無理
をしない様にゆっくりと歩く。
07時30分になると樹林帯を抜けて稜線がはっきりして来る。

  
          06時45分西沢渡分岐                       ダケカンバの林を抜ける

  
          マルバタケブキ                                朝の雲

  
       ダケカンバは美しい                               小聖岳ピーク


           兎岳                                               聖岳

 小聖岳  2,662m

07時40分本日最初のピークである「小聖岳」の標識に到着。すると富士山が遠くから挨拶をしている。北アルプスから
でも見える富士山だから南アルプスからだと当然の事ながら大きく立派な姿だ。天辺の両端には小さな角が生えている。


山という物はピークからピークへの稜線は単純ではなく、その間にいくつもの小ピークがあってアップダウンを繰り返す。
小聖岳から前聖岳(聖岳)への稜線もその例外ではない。


  
小聖岳  何か尾根の単なるピークみたいな場所やなあ               でも富士山が見えるでよ


        小聖岳方面から見るデカい聖岳   迫力あり〜〜

  
  コル部から見上げると結構厳しそうな聖岳への登山道            タカネツメクサ

このパッと見荒涼とした岩ばかりの尾根ではあるが、そこにもタカネツメクサ、トウヤクリンドウ、ウスユキソウ、イワツ
メクサなどのお馴染みの高山植物が花を咲かせている。


 
         トウヤクリンドウ                              ウスユキソウとイワツメクサ

08時を過ぎると上りの岩稜地帯となり高度感が出て来る。少数ではあるが登山者の姿も見える。この稜線ですれ違った快
活な単独の若者もロングな縦走をしていた。南アルプスはアプローチと稜線歩きが長いのでそれだけの覚悟をしている登山
者が多い。



 聖岳直下から変化のある南側稜線を眺める   小聖岳は尾根の取り付き場所として見える 前方の山は茶臼岳だろう

 
    若者から元気を貰う                               おっ 又富士山が見えるぞい


聖岳(前聖岳)日本百名山  標高 3,013m

朝と違ってあまり天気が良くないが富士山を見ながら08時55分最初の目的地・聖岳に到着した。山頂には防寒具を着て
寒そうな単独者が居て話をすると、ネットで知り合った初対面の人を待っていると言う。特に約束をした訳でもないのだが、
何でも仙塩街道から聖岳を目指している人の聖岳へのネット上計画到着予想日が今日に当たるので待っていると言う。

物好きで気の長い人もいるもんだ。

  
      聖岳山頂  誰か一人立っている                       やっぱり気になる富士山


     08時55分   日本百名山  聖岳(ひじりだけ)    奥に赤石岳がこれ又どっしりと構える

  
  足のトラブルを乗り越えてやってきた研治と握手                気持ちええなあ〜〜


「奥聖岳」標高 2,978.3m

09時10分、聖岳にザックをデポして「奥聖岳」へ向かう。奥聖岳は前日歩いて来た聖沢沿いの登山道と並行して続く聖
岳東尾根上にある平凡なピークで奥聖岳という名前が付けられていなければ決して足を延ばす事もない山だ。途中ビバーク
可能な平地もあるが、殆どウラシマツツジがへばりついたゴツゴツした岩尾根を進むと09時23分山頂標識があった。

写真を撮って引き返すとこちらから遠目に見える聖岳ピークは迫力がなくハイマツの緑に覆われている。右手には相変わら
ず赤石岳が堂々と構えており、ここまで東に出ると赤石岳の右奥に悪沢岳が顔を出す。平らな稜線部にはチングルマの毛が
風になびいており、ここには明らかに2か所程のテントを張っている形跡がある。


  
     奥聖岳のピークへと向かう                      ウラシマツツジの紅葉が嬉しい  奥は赤石岳

  
  途中 一か所平らな場所がある テントを張った形跡あり       聖岳から15分弱で奥聖岳に到着  富士山が見える


       奥聖岳は聖岳東尾根上に張り出した尾根で、ここまで来ると赤石岳の右手奥に悪沢岳が顔を出す

  
    九月のアルプスを彩るウラシマツツジ                      聖岳に引き返す


09時40分聖岳に帰ると、研治の足を気遣ってくれた優しいご夫婦が居て話をする。奥さんの足元を見ると何か登山靴ら
しくない物を履いている。五本指に分かれたビブラムソールの岩靴だと言う。この人はこのビブラムファイブフィンガーズ
が気に入って色違いをネットで数足買っているらしい。


  
 前日滝見台で研治の足を気遣ってくれた優しいご夫婦         5本指のビブラムファイブフィンガー靴を履いていた

09時50分このご夫婦とネット仲間を気長に待っている単独者に別れを告げて兎岳へと向かう。
下から単独女性が登ってきたので少し話をすると「百闢エ山の家」でバイトをしており休日を利用してアルプスを歩いてい
ると言う。恐らくそこでテン泊すると言うと「元気で歩いていますと伝言して下さい」と頼まれた。
大体山で会う若者は精
気に溢れており話をしても気持ちが良いものだ。


聖岳から縦走路でテント泊可能な場所は兎岳避難小屋、百闢エ山の家となり赤石岳には野営地は無く、その次は荒川小屋と
なる。


当初のテント泊予定では1泊目を兎岳避難小屋、2泊目を荒川小屋と漠然と決めていたのだが第一日目で聖平までしか行け
なかったので、2日目は百闢エ山の家辺りが妥当な線なのだ。


  
   百闢エ山の家でバイトをしている山ガール                  前方の兎岳へと向かう


聖岳から次の兎岳へミヤマダイコンソウの紅葉を見ながら下って行くのだが、その間に2,769mのピークがある。10
時50分頃このピークを歩くと岩が赤みを帯びている。赤石岳が近いのでこんな岩の色をしているのだろうか。そこから見
る兎岳はかわいい名前に似合わず左手が厳しく切れ落ちている。コル部にはタカネシオガマ、シコタンソウの咲き残りやウ
メバチソウ、ウスユキソウなどが見られた。


  
兎岳手前の2,796m岩ピーク 岩肌が赤い 左奥が兎岳        兎岳のコル部に向かう  左側が切れ落ちている      

 
 この辺りの岩は赤いと言うかピンク色に近い                    前方は兎岳

 
  タカネシオガマと むむっシコタンソウの咲き残り                  ウスユキソウとウメバチソウ


兎岳 標高 2,818m

見上げる兎岳は相変わらずゴツゴツしており、予想通り左手は切れ落ちて厳しい登山道だ。この辺りではイワインチンが黄
色い花を咲かせて目立っている。又ナナカマドの赤い実も目に付く。

先ほどからガスが湧き、振り返る聖岳を少し隠しているが、その姿も又幻想的だ。岩尾根を這い上がると
11時50分大き
な段になった左手の平地に兎岳避難小屋が立っている。登山道から少し外れているので中を見る事はしなかったが、コンク
リートのしっかりした四角い建物で、奥にテン場としても利用できるスペースもある。聖岳から見ると近そうな兎岳だった
が結構時間がかかった。
ここから更に急な上りを詰めると12時05分「兎岳」の山頂に到着した。

  
   兎岳は近づくと意外にゴツゴツしている               右手には赤石岳が見える 手前に長い肩がある事がわかる

  
   あの奥の岩山辺りが兎岳山頂だろう                    振り返ると厳しい尾根である事がわかる


    兎岳避難小屋のステップから振り返る聖岳   左の肩が奥聖岳だ

   
    兎岳避難小屋が左手に見える                     兎岳への最後の上り

  
12時05分 兎岳山頂に着く 聖岳から2時間15分かかった       これから向かう百闢エ山の家への山々

さて、兎岳からの眺めがすこぶる良い。右手に今まで歩いて来た聖岳と稜線の登山道、左手にはこれから進む小兎岳、中盛
丸山、大沢岳が並び、そこから右手正面には赤石岳が聳えている。



          兎岳から東側方面のパノラマ写真    右端の聖岳から中央に見える赤石岳とその奥の荒川岳へと時計回りでの縦走する


小兎岳 2,738m

兎岳から見下す小兎岳は小聖岳と同様にそんなに山らしいピークとは思えない山塊なのだが、一旦兎岳の稜線を下るとそれ
はそれで結構なアップダウンがある。
ハイマツとウラシマツツジと岩屑の比較的広い尾根を進み、ハイマツの根っこが浮き
上がっている基部を上ると13時05分小兎岳に着いた。
このピークからバックに赤石岳がどっしりと構えていい眺めであ
る。


  
コルに下りて右手の小兎岳へ  正面は中盛丸山と大沢岳      ツガザクラ・ミネズオウ・ハイマツの中にウラシマツツジの紅葉

  
   小兎岳が近づくと緩やかな地形に                   小兎岳の山頂標識の向こうに赤石岳が見える


    13時05分 小兎岳に到着   バックに赤石岳がド〜〜ンと見える   兎岳から丁度1時間かかった

  
 こんな平凡な尾根ピークでも標高が2,700m以上ある          お次の中盛丸山は端正な形をしている


中盛丸山 2,807m

ここから次の中盛丸山は丸いと言うよりは丸く尖がって端正な形が特徴的なのでわかり易い。一旦稜線を少し下ると後は上
り一辺倒となり、ミヤマシャジンなどを眺めながら急登を喘ぐ。稜線沿いは切れ落ちた場所が続くので登山道は左の緩傾斜
樹林帯へと回り込む。聖岳をバックに岩屑を上がると14時00分平らな山頂を持つ「中盛丸山」に到着。このピークから
も小兎岳と同様にバックに赤石岳がデーンと構える。


  
  中盛丸山のシャープな姿                         登山道は稜線を左に回り込むので山の形が丸くなる

  
     ハクサンイチゲの咲き残り                              ミヤマシャジン

  
   歩いて来た兎岳方面の尾根を振り返る                  聖岳をバックにもうすぐ中盛丸山だ〜

 
 14時 中盛丸山にとうちゃこ〜〜〜    小兎岳からここも約1時間かかった   バックの赤石岳に雲がかかってきた


大沢岳 2,820m

さらに次の大沢岳へと進むのだが、この稜線は眺める限り途中までは比較的アップダウンがなさそうだ。14時30分「百
闢エ山の家」近道分岐標識があるが、どうせ急いでも仕方がないので尾根道を進む。さらに進むと今度は西側の「しらびそ
峠」への分岐標識が立っていた。こんなマニアックなルート歩く人もいるんだなあ。


分岐の鞍部から大沢岳へは少し岩尾根の上昇を強いられる。この頃になると辺りがガスってあまり展望が無くなってきた。
大沢岳は印象的には武骨な山なので赤石岳への縦走尾根を眺める場所って立ち位置だ。



ウラシマツツジ、コケモモ、ウスユキソウの細尾根を抜けて14時55分「大沢岳」の三角点と標識に着いた。しっかりし
た標識には「ようこそ特殊東海製紙社有林へ」と書かれていた。山の所有者が登山者に対して「ようこそ」と声をかけてく
れる関係っていいなあ


  
      中盛丸山で兎岳をバックに                 傾斜を20分かけてコルに下りると百闢エ山の家への近道晩期があった

   
     前方の分岐は「しらびそ平」分岐                       武骨な大沢岳に登っていく

  
        バックは中盛丸山                             あのピークが大沢岳だ

  
   武骨な大沢岳を飾るウラシマツツジ                    ウスユキソウとウラシマツツジ

  
         14時55分 大沢岳に到着                   今日最後のピークを踏む

     百闢エ山の家は稜線部から沢沿い(百闢エ)に下った場所にある

  
     特殊東海製紙(株)の山頂標識                      赤石岳が少し雲間から見えた


百闢エ山の家へと下る

大沢岳のピークを踏み、更に稜線を突き当たると右下に向かって登山道が延びる。時間的にこれ以上のピークを踏む事は無
理なので百闢エ山の家野営地で2泊目を決定しコルに向かって急降下していく。ここの地形は少し変わっており、主尾根が
北側に回り込んでいる。


だから尾根はショートカットして斜面を下ってトラバースするのが登山コースとなっている。ハイマツの間をガレ岩が道の
様に蛇行して続いている。これが自然に出来た岩の帯なのか人の手によるものか良く知らない。
大井川の支流、赤石沢のそ
の又支流が百闢エ(ひゃっけんほら)という沢の名前である。
洞とは穴という他に「谷、渓谷」という意味もあるそうだ。

ハイマツの斜面は最後に樹林帯に突っ込み小さな百闢エ(沢)を渡ると15時50分静岡市営の「百闢エ山の家」が管理す
る野営場に着いた。


  
    ガスが巻く大沢岳の北ピーク                       ターニングポイントで右へ下る 

  
   大沢岳の稜線を鞍部へ向かって下る                  トラバース登山道から北側の稜線部を見る

  
 百闢エ山の家テン場が下に見える   前方は百阨ス         登山道はハイマツの間のガレ場となる

  
  百闢エ(沢)を渡ると野営場となっている                 ミヤマシシウド、トリカブト、ミソガワソウの咲く百闢エ(沢)

    
百闢エ山の家  飲料水は建物の下に蛇口から採取する          設置に少し慣れたニーモ・オビ2P



テン場の平地にザックをデポして沢を百闢エ山の家へ向かう。沢筋の道は薊(あざみ)が沢山生えており、それを避けなが
ら山小屋に着いてテント場の使用料を払って例のアルバイト女性の伝言「彼女元気で聖岳歩いてましたよ〜」と言うとへ〜
っと喜んでいた。


ここへ来る途中の沢水を飲んだのだが、小屋の人からこの沢水は飲料として適していないので小屋の外側にある蛇口からの
水を使って下さいと告げられる。ガクッ


暫くして研治も小屋にやって来たので缶ビールを買ってテン場に帰る。誰も野営地を利用していないのでどこでも良いと言
われていたので、沢の音があまり聞こえない場所にテントを設営して食事を作る。
と言ってもお湯を沸かしてアルファ米の
パックに注ぐだけではあるが・・・
ビールを飲んで早めに寝る。さて明日はどこまで行けるやら。

南アルプス南部縦走記  第2部  (赤石岳〜荒川岳) は ここ   


  

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