嗚呼 懐かしの剱岳

剱沢〜別山尾根ルート〜剱岳〜八ッ峰付近のビバーク地〜長次郎谷〜剱沢 周回


カシミールソフトを使用したGPSトラックログ図 室堂〜剱岳〜長次郎谷〜立山


                  剱岳の概要 (別山・北峰より)

プロローグ

私の日本アルプス・デビューは11年前の7月「剱岳」だった。当時ひょんな事から知り合った高御位山さんがセッティング
してくれた姫路にある「稲美山の会」有志の剱岳山行に私とマーシーさんを同行させて貰う事になった。元々四国の山歩きが
メインだったので急きょヘルメット、ピッケル、アイゼン、寝袋と野営道具を揃えたが、テントは高御位山さんの山の会で準
備してくれた。


いきなり剱沢でのテント泊、長次郎谷(ちょうじろうたん)の雪渓歩き、北アルプスの岩稜歩きと、とても刺激的な体験だっ
た。
更に美しい室堂平や周りの山々に残雪の美しい模様を楽しみながら立山を歩いた事も北アルプスの魅力を知る貴重な経験
となった。それ以来、北アルプスを始め、中央アルプス、南アルプスと私を中央の山へ誘うきっかけとなった山行がこの剱岳
だったのだ。


この時一緒に歩いた高御位山さん、大西(信)さん、ゆーみんママ、森安さん、それに今は亡き女カンスケ・菅さんやクモ女
・前田さん達の笑顔は忘れられない。私の日本アルプスの懐かしい原点「剱岳」をじっくりと歩いてみよう!



 懐かしい北アルプスデビューは高御位山隊に連れられての剱岳〜立山遠征だった

ルートは当時と反対に別山尾根ルート〜剱岳〜長次郎谷として、趣向を少し変えて剱岳が見える八ッ峰の頭付近でビバークす
ると決めた。


令和元年8月1日 立山で車中泊

北陸道を通り立山公営駐車場(無料)へ入る。車は満車に近い状態だったがかろうじてスペースがあり、そこで車中泊。春に
行った藤原岳近くに住む男性2人が直ぐ近くでテント泊をしていたので話が弾む。前回、ここで高御位山さんが奢ってくれた
鱒寿司が食べたくなって探すがどこにも売って無くて残念だった。


  
  懐かしい立山ケーブル駅                      駐車場にて道具を下し、車中泊


令和元年8月2日 立山から室堂へ、更に剱沢野営場まで移動

前日、立山ケーブルに翌日の乗車券を買いに行くが「当日並んで頂いて先着順に発売します」との事で05時30分から並ぶ
が既に長い行列が出来ていた。そう言えば前回も菅さんが代表で並んでチケットを買ってくれたのを思い出した。(チケット
は室堂往復で4、310円)


  
 早朝から当日切符を求めて並ぶ登山者               07時始発のケーブルカーに乗る

07時00分始発の立山ケーブルで美女平へそこから立山高原バスで室堂まで約1時間10分(乗り換え時間10分を含む)
室堂平からミクリガ池の横を抜けて雷鳥沢へ下る。テン場には一般テントに交じって高校山岳部の大きなテントも張られてい
た。
テン場のある雷鳥沢の標高は約2,280mで、ここから標高差530mを上って別山乗越へ至るのだ。

  
 08時10分 室堂バスターミナルに着く       登山者も観光客もターミナル前の玉水を飲む

称名川に架かる木橋を渡る。この小川の様な小さな流れが周りの残雪から溶け出す水を集めてあの称名滝になって落ちて行く。
ここからいよいよ16kg程の荷物を背負ってジグザグの登山道を別山乗越までゆっくりと上っていく。今年はリップさんが
先に知らせてくれた様にコバイケイソウの当たり年で、眼下に広がる室堂平を飾る。


ザックが重いのには訳がある。今回は剱岳の北方稜線に踏み込んだ場所で剱岳を眺めながらビバークと決め込んでいる。岩稜
帯を出来るだけ安全に歩く為の作戦として、剱沢に余計な荷物をデポする為のツェルトを一張り余分に持っている。それと極
力沢水を飲まずミネラルウォーターを詰め込んだ(5リッター)のだ。



         立山を映しこむミクリガ池  ちょっと立山の残雪が少ない


                 地獄谷と奥大日岳

  
   イワイチョウ                              タテヤマリンドウ

  
    ヨツバシオガマ                             ハクサンシャクナゲ

  
      オンタデ                             ウサギギク

  
    チングルマの綿毛                         チングルマの花

  
 常翔啓光学園(大阪府)の高校ワンゲル部テント        兵庫高校山岳部の大型テントも並ぶ

  
   最近は色んなタイプの大型テントがあるなあ         称名川にかかる橋を渡る


   のどかな小川だが、この流れがやがて称名滝への渓谷を作る

  
 ミヤマキンポウゲ                            ハクサンイチゲは終わりかけている

  
 シラタマノキ                                 タカネオトギリ

殆どの登山者は小屋泊まりの軽装だが、時折高校生や大学生の山岳部がとてつもなくデカいザックを背負ってストックも持た
ずに歩いている。若さは財産だとつくづく思う。彼らは歩くのが早いが規定通りの休憩時間を取るので抜かれたり、追いつい
たりしながら歩く。


広がる立山の山々の残雪は11年前の7月に比べると極端に少ないが、まあそれなにりアルプスの風景を作っている。今日の
行程は剱沢のテン場までなのでゆっくりと歩いて13時05分やっと別山乗越に着いた。ちゅう事は室堂から4時間半もかか
っている事に唖然とする。私の肉体は確実に老化の一途を辿っておりそれ以上のペースでは歩けなかったのだ。多くの登山者
がここで休憩していた。

ここで単独登山者を見つけて剱岳をバックに写真を撮り合い、13時30分剱沢に向かって下る。立山だけにタテヤマリンド
ウやミヤマダイコンソウ、チングルマなどが咲いているがハクサンイチゲは時期的に少ない。



    雷鳥坂から室堂平を眺める   中央は雷鳥沢のテン場  室堂ターミナルは左奥


                      コバイケイソウと立山

  
  大きなザックを抱えた若者が多い                 12時55分 やっと別山乗越に近づく

  
  イワツメクサ                              トウヤクリンドウ

  
  別山乗越には登山者がウヨウヨ                      一応剱岳をバックに

別山乗越からはしばらくの間剱沢の野営地は手前の丘で見えないが、30分程下るとテン場が見えて来る。肝心の剱岳はと言
えば左側から吹き上がるガスで全体は見えないのだが、まああと2日もこの辺りに居るので焦る事も無い。それに野営地のテ
ントもそんなに多くは無く、次から次へと来るテント泊登山者に場所取りの焦りを覚える事も無い。
秋の涸沢でパノラマコー
スから見るテントの数にその美しさを通り越して、テントを張る場所があるんだろうかと焦った事を思い出した。


  
 13時30分 別山乗越から剱沢野営地へ向かう          クロトウヒレン

   ミヤマダイコンソウと剱岳   剱沢野営地は未だ見えない

剱沢野営地

14時30分懐かしい剱沢の野営地に着き、余り混んでいない上の方にテン場を確保した後、野営場管理所にテントの申し込
みと長次郎谷の情報を貰いに行く。野営地使用料は一泊一人500円なので3日分1,500円を払う。(2日目は荷物デポ
用のツェルト代) ここのテン場代は基本的に宿泊登山者1名につき1日500円となっているので、荷物のデポ用にテント
を張ると言うと計算に困っていた様だった


長次郎雪渓は「熊の岩」左股は雪渓が崩れて通行不可となっている事を聞く。ここの水場は沢から引いた水で洗い場風に水道
蛇口式に作ってあるので利用しやすい。トイレは2ヶ所あり、バイオトイレの方が綺麗だった。
調理用の水はどうせ沸騰させ
るので水場で汲んだものを使い、ミネラルウォーターは温存する。

下のテン場には大勢の韓国登山者で賑わっていた。水場でお米を研いでいる韓国人と日韓民間交流をする。北アルプスは韓国
登山者に人気があってあちこちで出会う。


夕方はガスが湧いて何も見えなくなり、テントに入ってゆっくり休憩する。夜中に激しい雷雨があり、物凄い水圧で居住用の
モンベルドームシェルターの天井から霧雨が降って来た。幸い剱沢のテン場は傾斜があるので水は足元に溜まって行くのでそ
う問題は無かった。


  
  別山から剱沢へのスロープ                    今回のザックはグレゴリー 「スタウト65」だ


  剱沢の野営地は剱岳がドーンと迫る北アルプス屈指のテン場だ

  
今回は翌日剱岳に持って行くモンベル・ドームシェルターII      荷物をデポする為のモンベル・モノフレームシェルター

  
 アオノツガザクラとイワカガミが咲くテン場               夕方からガスが谷を多い展望が無くなる



令和1年8月3日  いよいよ剱岳へ



カシミールソフトを利用したGPSトラックログ図  1日目)剱沢野営地〜別山尾根ルート〜剱岳〜長次郎のコル〜池ノ谷の頭(ビバーク)
                              2日目)ビバーク地〜長次郎谷(雪渓)〜剱沢雪渓〜剱沢野営地

朝05時前に目覚めるともう辺りは明るく、既に剱岳へ出発している人もかなりいた。確かに朝暗い内から辺りは騒がしかっ
た。前日、上側にテントを張った人から「山小屋に居る団体さんが暗い内から出発するのでカニのタテバイで大渋滞する。
だから返って朝ゆっくり出発する方がストレス無いですよ」とアドバイスを受けていた。


昨夜の大雨でテント内に水が溜まった後片付けとか、荷物デポ用のツェルト設営などに時間がかかり出発は07時15分とな
った。日帰りならちょっと遅すぎる時間だが、どうせ今晩は剱岳北方稜線でビバークなのだから急ぐ必要も無い。

別山尾根へ行くには
剱沢野営管理事務所と富山県警剱沢警備派出所の横を抜けて旧剱沢小屋横まで下る。そこから雪渓を2ヶ
所程渡って別山尾根の一服剱付近へ向かう。08時15分途中にある剣山荘でコカコーラを1本だけ買う。何せ1本500円
もするものだから貧乏人は北アルプスの危険な岩稜を歩くよりコーラ1本買う方が勇気が要るのだ。



  朝 04時50分 雨が止んでおりホッとする  もう暗い内からテン場を出発する声や音が聞こえた

  
 どこかのサービスエリアで買ったゆうちゃんラーメンで朝食   バイオトイレ付近からテン場の様子

  
07時15分 ゆっくりとテン場を出発 左側の別山尾根へ向かう   先ず、富山県警・剱沢警備派出所の前を抜ける

  
     旧剱沢小屋の左手を抜ける                雪渓を2ヶ所程渡って別山尾根へと向かう (ルートが見える)


一服剱 2,618m

コバイケイソウが咲き誇る斜面を別山尾根へと上る。08時45分「一服剱」2,618mピーク手前で別山尾根の稜線へ上
がると前剱の鋭い岩峰が眼前に迫る。これだけでも迫力があるのに剱岳の本峰がそのまだ向こう側に控えているのだ。

08時50分最初のクサリ場が現われて前から来る下山者と交差する。え?こんなに早く下山って一体何時に登ったんやろう?
すぐに2番目の鎖場になる。右手に別山からのスロープが見えて出発した野営地や剱沢山荘が見える。ここから眺めると丁度こ
の二つの場所がテラス状の地形になっている事が良く分かる。


遠くから見る前剱の岩峰は一体あんな場所をどうやって上るんだろうか?と不安になるが、09時17分クルマユリ越しに前剱
の姿が迫るとそのルートがあらかた分かってくる。
右手のガレ場下には武蔵谷の雪渓が下っている。


         剣山荘を経由して一服剱へと向かう

  
   勇気を出して剣山荘で500円のコーラを買う         ハクサンフウロはデカくて色が濃かった


     今年はコバイケイソウの当たり年だ


  稜線へ上がる手前で五竜岳〜鹿島槍ヶ岳〜爺ヶ岳が並ぶ

  
  08時42分別山尾根の稜線へ上がる               一服剱から厳しそうな前剱を見る

  
鎖場が現れる (2番鎖場となっている) 前から下山者が・・・      最初の剱沢へ落ちる武蔵谷


クルマユリ越しに前剱へのルートが見える  右手をトラバースしている様だ


前剱 2,813m

09時35分頃から前剱への岩稜帯となり、振り返ると「一服剱」2,618mピークとその後ろに別山からカール状に広がっ
た谷が剱沢へと繋がっている。その左手奥には黒部ダムを挟んで針ノ木岳らしき姿も見える。


幾つかの鎖場を通過して10時30分「前剱」の肩に上がる。するとそこに小学生が座っていたので聞くと「ここでお父さんを
待っています」との事。この子供は怖くてこれ以上登る事が出来ないので山頂へ行った親父さんをそこで待っているとの事だった。
見ると行動食と水を持っているので安心すると共に、この子にとっての山の印象と、我が子を置いて危険な山頂を急いで往復する
父親焦る気持ちを思いやる。

  
 一服剱からは大きな岩のガレ場を進む          岩稜帯も這い上がって行く


  前剱の手前から眺める一服剱と別山から剱御前の稜線    左奥は針ノ木岳あたりか?

  
  前剱へ向かうゴーロ帯                 窪地に沿って稜線を目指す

  
      鎖場が現れる                 稜線を回り込んでルートが付けれれている

  
  稜線が次第に近づく                  奥大日岳と大日岳

  
 早月尾根も結構急に見える               前剱への鎖場

  
  10時28分  お〜〜剱岳本峰が現れた        小学生がここで父ちゃんを待っていた


    前剱から本峰・剱岳を眺める   まさに岩の殿堂だ〜〜〜 

前剱を抜けると眼前に雪渓と岩だらけの剱岳の本峰が迫る。10時45分崩れやすい岩壁をトラバースする5番目の鎖場を抜け
る。崖にはイワギキョウが鮮やかな紺色を風に揺らしている。
前剱を超えて暫く進むと比較的なだらかな岩稜帯の尾根となる。

11時20分いよいよ剱岳本峰への上りが近づく。右手には平蔵谷の雪渓が落ち、眼前には鎖と鉄柱が打ちこまれた7番鎖場の
平蔵の頭」への這い上がりとなる。この辺りは上りと下りが分かれているので登山者が対面する事は無い。


平蔵谷を見ると雪渓を下る登山者が見える。先頭の足元が心許ないのでガイドが居るのだろう。垂直に近い岩壁も鎖や鉄柱で足
場が確保されているのでそう難しくは無く、問題はやはり先行者からの落石だろう。


  
   鎖場が次々に現れる                       鎖場に咲くイワギキョウ


                     平蔵谷と剱岳

  
 前剱を抜けると遠目には少しなだらかそうな岩場が続く  この辺りは上りと下りでルートや鎖場が分けられている(下り専用)

  
 ツガザクラやイワカガミが咲いていた                剱岳本峰まで遠目に平坦な岩尾根を詰める


   意外な所から下山者が下り専用ルートを下りて来る

  
 平蔵ノ頭への鎖場に取りつく                   足元の断崖にはイワツメクサとイワゴギキョウが咲いている


        平蔵ノ頭付近から落ちる「平蔵谷」の雪渓を下る登山者 


  大キレットの長谷川ピークを彷彿とさせる岩場 (下り専用ルート)


  で・・・・ 上り専用ルートはほぼ垂直の岩壁だ

  
 足場が無い所には鉄柱が置かれている                      鎖場が続く


剱岳 山頂 2,999m  三等三角点「剱岳」2,997.1m

11時52分這い上がって来た岩峰を見下ろす。この針山の様な岩峰を良く見るとうまくトラバースしてルートが付けられてい
る事に感心する。すると「カニのタテバイ」らしき鎖場が現れ、
その後、岩の割れ目を利用したルートを這い上がって行く。


     振り返ると針山の様なギザギザ稜線にルートがうまく付けられているのが分かる

  
 この辺りがカニのタテバイかな?                  下を見ると確かに高度感がある

  
 岩の窪地を鎖に沿って這い上がる                  タカネヤハズハハコの色が良い


   前剱や一服剱の稜線ルートを振り返ると立山の峰々も見える高さまで来ていた


12時30分山頂近くの稜線へ上がり、大きな岩がゴロゴロする稜線を歩く。11年前は雨とガスで視界が悪かったが、今日は
少しガスが湧いてはいるが天気が良い。12時40分懐かしい山頂の祠に到着する。不要な水や食料を剱沢に置いて来たとは言
え、ビバーク装備は結構重くて剱沢から5時間25分もかかった。殆どの登山者は野営地や山小屋からサブザックで日帰りをす
る。テント装備でこの辺りを歩く登山者は八ッ峰の岩ヤか、北方稜線へ踏み出す数少ない登山者だ。


祠のある剱岳山頂の標高は2,999mであと1m欲しいって有名な話だが、少し北側にあるもっと点の記で有名な三等三角点
「剱岳」は2,997.1mと少し低い場所にある。ここで食事中だったグループに「三角点の写真を撮らせてね」と荷物をど
かせてもらうと「え? これ何?」ってそれまでこの三角点に気づかなかった様だ。一緒に居た女性は「私ここに3度目だけど
初めて三角点がある事を知った」ってスマホで下山した友達に動画配信していた。


  
      定番のイワツメクサ                      ん? ミツバオウレン?

  
 12時30分 山頂部の岩稜帯になる                山頂の祠が見えたぞ


    12時40分 やっと剱岳の天辺にとうちゃこ〜〜  結構ガスが出て展望が少なくなった

  
 点の記で有名になった剱岳三角点                  剱岳の北側を眺めながら しばしの行動食休憩を取る


剱岳北方稜線へ踏み込む

意外と長い長次郎雪渓の上部稜線

30分程山頂でゆっくりと過し、13時10分北方稜線へと踏み込む。11年前に高御位山さんに連れられて長次郎谷から剱岳
へ逆に歩いているとは言え、当時はただただ必死に後を付いて行っただけで、一人歩きとは全く状況が違うので緊張する。但し
長次郎谷までは過去に歩いた実績があると言う事で少しの安心感はあった。


取り敢えずの第一目標は長次郎の頭だ。翌日そこから雪渓を下る事にしている。この為にピッケルとアルミアイゼンを持って来
たのだった。


13時33分岩場にフィックスロープがあって急な崖を雪渓近くまで下がって赤茶けた岩峰の前に出る。その岩峰の長次郎谷側
をバンド伝いに適当に巻いて進む。右下に急傾斜の雪渓が落ちているので恐らく長次郎谷の左股先端部辺りだろう。


ルートが良く分からないが少し稜線へ向かって歩くと14時30分長次郎の頭が見えた。ここも安全そうな岩のバンドに沿って
進むと又フィックスロープがあってホッとする。要はロープは頼らなくてもその存在がルートの目印となって安心するのだ。


  
剱岳北方稜線へと踏み込む                  針山の尾根が北に向かって下っている 中央のピークが長次郎の頭か?

    
13時33分 フィックスロープで岩場を下る様にルートがなっている  赤茶けた岩山の右手をトラバースする


   長次郎ノ頭・前衛峰  右手の岩バンドを抜ける

  
 長次郎ノ頭コル部に一旦下りる                   右下は長次郎雪渓の左股稜線部になっている

  
  最初の大きいピークを這い上がる                 ガレ場に沿って上がり、途中から右手にトラバースする

  
 右下が長次郎雪渓・左股上部が続く                 右手の岩バンドをトラバースする


                    14時28分 長次郎の頭直下に出る

  
 14時36分 フィックスロープで右の岩バンドへ進む       右下には長次郎雪渓の左股・右股の中央部付近だ  

14時56分長次郎谷の左股と右俣の中間点を通過する。明日下る雪渓の様子を眺めながらゆっくりと歩く。そこから尖った岩
稜帯のトラバース路を探しながら進む。この辺りは長次郎雪渓や八ッ峰の岩ヤ達が歩いているので踏み跡がありルートが分かる。
左手は池ノ谷への鋭い谷が落ちている。


15時から30分程はギザギザ岩尾根に沿って稜線近くを下り気味に歩く。時々左手の池ノ谷側が見えるが鋭く切れ落ちた谷だ
から余り池ノ谷側を歩く事は少ない。
15時50分珍しく池ノ谷側を歩く場所が少しあり、そこでヒメキマダラヒカゲ(蝶)を
見かける。掲示板で適当にベニヒカゲと載せた所、アカリプタさんから四国でも見られるヒメキマダラヒカゲだと教えて頂く。


  針の山を右手にトラバースしてガレ場を進む

  
 岩尾根に沿って下る                   稜線部に出ると池ノ平山方面が見えた

  
  キバナノコマノツメ                  イワベンケイ

  
  トラバース路を進む                長次郎雪渓を振り返る バックは源次郎尾根と別山

  
 15時48分 初めて稜線の左側に出る        ヒメキマダラヒカゲ (アカリプタさんに教えて貰う)


難所の岩場

16時05分右手に八ッ峰の尖った尾根に沿って長次郎谷の右俣雪渓が並んで落ちて行く。帰りはここを下るので薄くなった雪
渓を眺めてルートを探す。近くに殉難碑があり気が引き締まる。色んな条件で命を落とす人が居るんだとしみじみその不運を思
う。すると右手の岩に折れたピッケルが立っている。16時15分本日一番の岩渡りの難所に出合う。岩峰と岩峰の間にあるコ
ル部に下りるルートの手がかり、足がかりが薄く少しヤバいのだ。


そこを何とかクリアして歩いていると前方から岩ヤがやってきた。北方稜線に踏み込んで初めて会う人間に少し嬉しくなる。聞
くと八ッ峰を登攀して今から剱岳を下ると言う。女性連れで少し手間取った様だ。日は長いとは言え最後は薄暗い下山となるだ
ろう。お互いエールを送って別れる。



 16時06分 前方を眺める  長次郎雪渓(右股)が八ッ峰の稜線に沿って落ちて行く


  右に折れたピッケルが立っている  ここが難所のシンボルマークだ

  
 やはりこの辺りで命を落とした遭難碑がある           振り返ると岩の回廊のバックに剱岳が聳える

  
 このコルに下りるのがちょっと危険だ                コルからは右手にトラバース


       この岩斜面が途中から手がかり・足がかりが薄くなる   雨の時は危ない

  
北方稜線に入って初めての人間、八ッ峰を這い上がって来た・岩ヤに出合う  お互いエールを交わして別れる


池ノ谷の頭付近でビバーク

16時37分ビバーク目的地の「池ノ谷の頭」付近に着いた。この場所は山岳雑誌「ピークス」で数年前に剱岳・北方稜線の特集
をしており、高橋庄太郎さんと森山憲一さんが歩き、その中でビバーク適地と紹介されていた岩に囲まれた場所だ。先程からガス
が湧いて来るので三ノ窓まで進ますここをビバーク地とする。ザックを下して濡れたドームシェルターやマット、銀マット、寝袋
などを広げて大き目の石を乗せ風で飛ばない様にする。



           先程通過した難所を振り返る


    16時37分 岩の回廊  ここが目的のビバーク地だ


池ノ谷乗越まで偵察

装備を乾かす間に空身で池ノ谷乗越まで偵察に下る。最初にルートを間違え谷へ下り苦労して上り返す。稜線部にルートがあっ
て、そのピーク(池ノ谷の頭)にもビバーク出来そうなスペースがあった。おそらくここが「池ノ谷の頭」だろう。そこから又
急な岩場を下る。


17時20分「池ノ谷乗越」に下りて雪渓の間から水が出ていないかチェックするが水場は無かった。アイゼンはザックの中な
ので靴だけでは急な雪渓は滑ってとても下る事は出来なかった。
八ッ峰の頭直下に出るルートがあったので稜線部まで上がって
向こう側の谷を眺める。
17時52分池ノ谷ガリーへの下り口を確認してビバーク地へ引き返す事にする。

18時20分ビバーク地に引き換えし乾かした物を片づけてテントを張る。それから夕日を期待して「池ノ谷の頭」へ出てみる
が生憎の霧で諦めてテントへ入る。岩に囲まれたビバーク地より少し細尾根を進んだ「池ノ谷の頭」の方が見晴しは良いのだが、
風をモロに受けるので移動はしない事にした。岩に囲まれ、風も防いでくれる最高のビバーク地で眠る。



  剱岳を後ろに背負って最高のビバーク地だ  濡れたテント、エアーマット、シュラフを干して池ノ谷乗越まで進む事に・・・

  
ルートを誤って谷を下る                         稜線へ苦労して這い上がる

  
 稜線部へ帰って激傾斜の岩場を下る                下にコル部が見える

  
         八ッ峰ノ頭                         17時20分 池ノ谷乗越に下りる

    
 厚い雪渓はあるが水場は無い                  ん?  こんな所にフィックスロープ? 右手に這い上がっている

   
 八ッ峰の向こうに池ノ平山とその奥に五竜岳と鹿島槍か?     池ノ谷乗越へ雪渓に沿って帰る 前方の岩壁を上り返す

  
 結構キツイ岩壁だ  岩に裂け目があるので問題無い      こんな場所を選んで這い上がる


  手前から八ッ峰ノ頭、小窓の頭、池ノ平山    奥が旭岳〜白馬〜杓子岳〜白馬鑓の後立山連峰


   池ノ谷の頭からビバーク地を眺める   左の岩下にビバーク地がある



  
  剱岳の夕日を期待するが・・・・                    あっと言う間にガスが出て何も見えなくなった


令和1年8月4日
池ノ谷の頭・ビバーク地〜長次郎谷雪渓〜剱沢〜剱沢野営地

剱岳北方稜線で朝を迎える

04時40分目を覚ますと東の空が赤くなっている。ここは何処だ? そうか 剱岳の北側に居るのだった。白馬岳から五竜〜
鹿島槍が赤い空の下、黒いシルエットで並んでいる。


朝焼けと夕焼けの美しさをより引き立たせる物は雲の存在である。雲一つない天気って言うのは絵的にシンプルすぎる。04時
56分唐松岳と五竜岳の間から太陽が昇る。


赤かった雲が次第に白くなり太陽が出切ったので今度は剱岳を眺める。冬の焼け方には及ばないがそれでも確かに焼けている。
朝日を浴びた剱岳をこの方向から見る人間は限られている。山登りをする人間にとっては珠玉の景色と言える。


  
  剱岳北方稜線で朝を迎える                    朝日を浴びるビバークテント


               後立山連峰の五竜岳〜鹿島槍を朝焼けが迫る


            唐松岳と五竜岳の間に朝日が上がると雲の色が白っぽく変わる


               どうだ! この剱岳北方稜線のビバーク地 !


                 朝日に焼ける剱岳

06時30分フツーの青空に変わったのでビバーク地を出発する。10分程して例の難所に差しかかる。来た時は気付かなかっ
たのだがコルに下りるロープを通す輪っかがあった。そこを下りようとロープをセットしていると岩の上から声がかかる。
「ここは上側の方が楽ですよ」と言っている様だ。聞くと彼らは三ノ窓でビバークして未明に出発したらしい。この言葉を信じ
て岩のトップに上がると、次の二人組が丁度悩みながら難所を突破しようとしていた。危険度から言うと上も下もどちらも似た
り寄ったりの難所だった。


07時07分難所を超えて折れたピッケル岩に着く。そこから長次郎谷への適当な下り口を検討しながらトラバースルートを歩
いていると前方の二人が長次郎雪渓の左股辺りまで下ってしまっている。彼らは剱岳へ向かっているから、これはルートミスだ
ろう。


  
 06時30分長次郎谷へと向かう                   剱岳の山頂をズームすると既に登山者が沢山居る

  
 前日少し緊張した難所の岩壁に差し掛かる            前日は気づかなかったがロープを通す輪っかがあった

  
上から「こちらの方が楽ですよ〜」と声がかかる           岩の稜線へ上がってみる

  
 すると次の二人組グループが難所に取りついていた       う〜〜ん どっちもどっちやで

  
 這い上がった岩の上からコルを見下ろす              07時07分 折れたピッケルの場所を通過

  
      岩の回廊を通過                       長次郎雪渓側のトラバース路を進む

  
 先方の二人組は雪渓まで下ってしまっていた           さて、この辺りから長次郎谷を下る事にしよう
 

長次郎谷

07時28分雪渓が薄いザレ場を長次郎谷へと下る。上側では次の登山者が来てルートが分からなくなり右往左往している。道
の無い場所に慣れていないのだろう。大声で「下側のバンドまで下りたらルートがありますよ〜〜」とアドバイスする。


07時45分雪渓の先端部に着いたのでブラックダイヤモンドのアルミアイゼンを出して履く。雪渓が融けてガレ場が多いので
最初は雪渓を拾いながら下る。雪質は悪くなく結構歩き易い。



 07時28分 長次郎谷の左股は通行不可という情報だったので右股中央寄りの場所から下る事にする

  
  雪渓部までガレ場を下る                      アイゼンを装着〜〜  軽めのアルミアイゼンだ

  
 雪が融けた部分があるので雪渓を追って下る          先程ルートを失って右往左往していたグループは見えない

順調に雪渓を下り、08時37分雪のテラスに出る。そこから下側が見えないので端まで下って見るが、途中で雪が切れて左手
の雪渓に出るにはヤバい谷を下らないといけないので諦めて左手に戻って迂回する。ここで25分程タイムをロスする。まあ初
めてみたいな場所だから慎重にルートを選ぶ必要がある。

雪が無い場所を歩くと柔らかいアルミアイゼンがすり減る様な気がして早く雪渓に戻りたい。すると沢水が流れている場所があ
ったので水を補給する。水は少し余裕があったが、こんな場所でおいしい雪解け水を残量を気にせず飲めるのは嬉しい。

  
 先で雪渓が左右二つに分かれている          雪渓の雪質は硬くも柔らかくもなく丁度良い具合だ

  
 雪渓のテラスになっていて端まで進まないと先が分からない  結局テラスの下側は草地で急な谷になっていた


  長次郎谷の右股はここから見ると良く分かる テラスへ出ないで急な斜面を下るべきだった

  
  手前に下れそうな小沢がありここを下る        冷たい雪解け水が流れ落ちてくる

  
   雪渓に復帰する                  上側を見ると3本の雪渓が尾根筋へ向かっていた
  


その後安定した雪渓に下りて雪渓のメインストリートを下る。11年前は小雨模様で寒かったが、今回はスッキリ晴れて気持ち
がいい。
雪渓には落石も留まっているが、一緒に削られた草も落ちている。熊の岩を見ると、右手にテントが3張ほど見えるが
人の姿は見えない。ここにテントを張って八ッ峰か源次郎尾根で岩の訓練をしているのだろう。

10時07分下から単独の登山者が上ってきたので挨拶を交わす。雪渓には多数の落石が止っており、こんなのが音も無く滑り
出したら危険だと思うが、心配してもしょーがない。
10時35分行動食のカルビー「フルグラ」を食べる。フルグラは普段は
牛乳をかけたりして食べているが、水は先ほど補給したので乾燥した食材も流し込める。

稜線部が次第に遠ざかり、急斜面の雪渓が剱沢へと続く。
11時15分剱沢手前で訓練中のグループに会う。「山の会ですか〜
?」と声をかけると「○○大学の山岳部です」と答える。学生はプライドが高いので必ず山岳部ですと答える。5分程で広い剱沢
に下り着く。



   熊の岩上部にテントが3張りほど見える  こんな場所でテン泊は遠慮したい  岩ヤの訓練だろう

  
 熊の岩を回り込む  ピッケルはあまり必要がなかった    グレゴリー・スタウト65ザックとBDピッケル


    長次郎谷の「熊ノ岩」   ここで雪渓は左股と右股に分かれる

  
大き目の落石も転がっている こんなのがす〜〜と滑ると危険だ   落石に伴って草なども土が付いたまま落ちて来ていた

  
  下から単独登山者が上がって来る                上を見ると熊ノ岩も遠ざかっていた


  長次郎雪渓も痩せてきて両側の岩が迫り出してきている


          長次郎雪渓の下側に剱沢雪渓が見えて来た様だ

  
行動食はカルビーのフルグラを口に放り込んでガリガリ齧る    まだ雪渓の上端が見える

  
 下に長次郎雪渓の終了点=剱沢雪渓が見えてきた        大学の山岳部が雪上訓練を行っていた


  11時20分 剱沢に下り着く  日本三大雪渓だけあって広くて安定している でも結構な上りだ


剱沢を上る

剱沢から野営地に帰るのだが、これが結構な上り傾斜だった。10分程雪渓を歩くと左手に沢の音がして水が流れ出ている。しめ
しめ長次郎雪渓である程度は補水したが、念のため空のペットボトルに水を汲み入れる。先程から長次郎雪渓の下部で居た登山者
が二組程前を歩いている。恐らく雪渓を散歩しているのだろう。


11時50分に平蔵谷の下部を通過する。随分上の方まで雪渓が延びている。先程の雪渓歩きの人が平蔵谷へ少し上がってから又
引き返していた。

長次郎谷は剱岳から南東に伸びる「源次郎尾根」とその東側の「八ッ峰」との間にある沢筋なのだが、平蔵谷は「源次郎尾根」と
その西側、前剱から南東に伸びる「東尾根」との間にある谷である。この雪渓を利用して平蔵のコルまで上下する登山者も居る。


剱沢雪渓は日本三大雪渓と呼ばれるだけあってこの時期でも雪渓が谷を広く埋めている。キツイ上り傾斜を喘ぎながら詰めて行く。
左手に別山方面の岩盤斜面を伝って落ちる滝が見える。


12時50分左手に小さな滝が見えて、その辺りから登山者が下りて来る。声を掛けると真砂沢へ行くと答えが返ってきた。ここ
が剱沢野営地への分岐だったのだが、前方に立派な雪渓が続くので漫然と進む。何せ11年前は野営地から雪渓をずっと歩いて剱
沢へ出た記憶が強く残っていたのだ。急な傾斜を上り切って前方が稜線っぽいのに気が付く。ジオグラフィカで位置を確認すると
既に剣山荘方面へと行き過ぎていた。


13時35分先程見た雪渓の切れた滝まで引き返し、滝の近くでアイゼンを外し登山道へと入る。どうも11年前の記憶では剱沢
野営地までずっと雪渓があったので、まさか雪渓が切れているとは思わずルートミスをしてしまった様だ。記憶より地図の確認だ
った。


  
 剱沢の左手にも水場があったので又補水する          剱沢雪渓は段になっており、結構な傾斜だ


  左側「東尾根」と右側「源次郎尾根」との間に延びる「平蔵谷」 ここも稜線近くまで雪渓が延びている

  
           剱沢上部の様子                  剱沢下部の様子  結構な傾斜で下っている

  
  別山側には雪解けの小滝が見られる              谷筋も最後は滝になって落ちる


  どこまで続く? 何か尾根筋に近づいている様だ


   どうも剱沢野営場へ向かう沢を行き過ぎてしまった様だ  右下の入り江に向かって引き返す


 ここが剱沢分岐だった  11年前はずっと雪渓だったので見逃してしまった

  
 アイゼンを外して登山道へ這い上がる               カラマツソウが咲く登山道に入る

チングルマの咲く滝横の右岸登山道を通って14時40分「剱沢小屋」のテラスに出る。ここからも一服剱、前剱、剱岳を一望出
来るが、すこしピークが重なっているので景色的には剱沢野営地からの眺めが勝っている。ここでも少し高いがコーラを買って長
い休憩をしながら飲む。


野営地のトイレや水場を抜けて15時35分荷物をデポしたモノフレームシェルターに帰り着く。夕方からガスが出て景色が隠れ
てしまったがゆっくりとお湯を沸かして質素な夕食を取り、翌日歩く立山の地図を見ながら眠りについた。


  
 チングルマの咲く滝横を進む                     この雪渓が融けていたのでルートミスをしてしまった

  
   剱岳への鋭い岩峰が並ぶ                   剱沢小屋に向かって登山道を進む

  
 真砂沢・仙人池への標識が立つ                   剱沢小屋  11年前は建設中だった


            剱沢小屋のテラスから一服剱〜前剱〜剱岳が並ぶ

  
 エゾシオガマ                               タテヤマリンドウ

  
  鮮やかな色を放つイワギキョウ                   ノギラン

  
     剱沢野営上のトイレ                       剱沢野営上の水場

  
 デポした荷物専用のシェルターが待っていた          豪華なエビかき揚げソバ、コーヒー、ロカボパン、落花生

  
 剱岳は次第に雲が湧いて来た                    夕方にはガスで何も見えなくなる


 贅沢にも剱沢でテントを2つ張った登山者 手前:モンベル・ドームシェルターII、 後:モンベル・モノフレームシェルター


11年前に初めて北アルプスを経験させてくれた懐かしい剱岳を丁度逆ルートで天気の良い日に1歩けた事に感謝する。


11年前の初めての北アルプス・剱岳は    ここ  


       
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