槍ヶ岳 北鎌尾根と東鎌尾根縦走

 平成23年9月22日〜25日


プロローグ

四国の藪イノシシコンビの北アルプス遠征テーマは日頃四国に於いて行っている我々流の山歩きが果たして
北アルプスで通用するかという点にあった。その結果、天気の良い夏場であれば剱岳長次郎谷、槍ヶ岳〜
奥穂高・大キレット、西穂高〜奥穂高縦走を歩ける事を証明し、いよいよ次の目標を槍ヶ岳・北鎌尾根と決
める。


何せ年々体力が落ちて来るので今年この難コースに挑戦しておかなければ次のチャンスは無いかもしれない
のだ。年齢に対する対処策は「軽量化」しかない


装備の軽量化を図る為モンベルのドームシェルターと薄手の寝袋を「父親の安全の為や!」と子供達に無理やり
プレゼントさせる作戦に出てこれに成功するに到り、準備は万端となった。


9月17日から9月25日まで社会人になって初めて夢の9連休を取るが、前半は天気が悪くおまけに台風まで
やってきた。日頃の行いが悪いのは常々自覚しているがここまでとは・・・とほほ。 しかし悪運が強いらしく、
一旦逃したかと思ったチャンスが又やってきて、天候の回復を見越し台風の後を追いかけ9月22日出発とした。



槍ヶ岳・北鎌尾根とは?

槍ヶ岳は北アルプス南部の名実共に要の位置を占めており、そこに向って四方から尾根が延びている。一般
登山道として「西鎌尾根」(北側の三俣蓮華岳・双六岳方面から槍へ)「東鎌尾根」(大天井岳方面から槍へ)
南尾根」(穂高・南岳方面から槍へ)があるが、唯一尾根の先が沢に切れ落ちている「北鎌尾根」は登山道が
無いバリエーション・ルートとなっている。


北鎌尾根は魔の尾根とも呼ばれ、過去積雪期に「単独行」で有名な加藤文太郎(吉田富久と北鎌尾根で猛吹雪に
遭い北鎌P2直下の天上沢で発見)、「風雪のヴィバーク」松涛明(有元克己と共に北鎌尾根の厳冬期に遭難し
四の沢付近、千丈沢で発見)らの若い命を奪っている。


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厳冬期の北鎌尾根に逝った二人の登山家によってこの尾根が登山家の間で特別な意味を持つようになる


槍ヶ岳・北鎌は
我々B級登山者にとって積雪期以外にチャレンジ出来る念願のバリエーション・ルートである。

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           B級登山者の夢 槍ヶ岳 北鎌尾根

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この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)を使用したものである 
第1日目:中房温泉〜大天井ヒュッテ
第2日目:大天井ヒュッテ〜貧乏沢〜天上沢〜北鎌沢右俣〜北鎌コル〜独標〜北鎌平直下ビバーク地
第3日目:北鎌ビバーク地〜槍ヶ岳〜東鎌尾根(表銀座)〜燕山荘テン場
第4日目:燕山荘〜燕岳〜燕山荘〜中房温泉


第1日目 :中房温泉登山口〜合戦小屋〜燕山荘〜大天井ヒュッテ (約8時間)

平成23年9月22日(木)

台風の為足止めをされ、やっと平成23年9月22日 00時45分 坂出のコメリ駐車場でマーシーさんと
待ち合わせ中房温泉を目指す。


カーナビを頼りに08時40分中房温泉無料駐車場に到着。台風の影響で心配した駐車場はガラ空きで問題
なかった。(高速を下りて中房温泉への県道は当日06時まで台風の為閉鎖されていたそうである)準備の後、
少し歩いて09時15分中房温泉・表銀座登山口を出発。


登山道は確かに急な登りだが良く整備され「日本三大急登」という実感までは無かったが、寝不足が堪えて
合戦小屋まで3時間もかかった。12時20分合戦小屋で昼食の豚汁がとてもおいしかった。


合戦小屋から燕山荘までは比較的緩やかな傾斜となるが、相変わらずペースは上がらず14時00分やっと
こさ燕山荘に到着。吹きさらしの稜線で身体に受ける風が冷たくとても寒い。ミュータント・マーシーさん
からは「原さん 顔色悪いですよ」と言われて「私は人間だもの・・・」と益々弱気になる。


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  いきなり林道でカモシカや猿に会う               中房温泉 公営駐車場

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      中房温泉登山口                     花崗岩の岩が沢山ある登山道

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合戦小屋  孫が描いてくれた絵付きヘルメットと共に           燕山荘  だ〜れも外にいない

北西風の吹く寒い日でその後も時折降る小雨と霧で展望の無い稜線を震えながら歩く。

巨岩や周りの風景は帰りの晴天時にゆっくり楽しむつもりで、比較的歩き易い登山道をひたすら前に進んだ。
14時28分稜線のハイマツにライチョウを発見、ちょっと元気になる。時々左側のトラバース路に入ると風
が無くほっとする。


16時20分大天井岳(おてんしょうだけ)の巨大な山塊の基部、大天荘(だいてんそう)分岐に着く。もう
高度を上げて歩きたくなかったのでトラバース道を大天井(おおてんじょう)ヒュッテへと右手を進む。読み
方が色々あってややこしいわ。
このトラバース道は結構岩場もあり帰りが楽しみだった。


17時06分 霧の中に大天井ヒュッテの赤い屋根が見えた。先に着いたマーシーさんがテン場を申し込むと
「ここにはテント設営場がありません」と言う。えっ? 事前の調査不足であった。 今更 大天荘のテン場
へは行けないのでヒュッテに泊まる事に。 台風明けの為登山客は我々を含めてたった6名だった。


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   石灰岩の奇岩が尾根に点在                       ライチョウが2羽お出ましになる

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     大下りを歩く                         登山道は整備されている 小林喜作レリーフあり

大天井岳から中岳を経由して槍ヶ岳東鎌尾根への登山道は猟師「小林喜作」によって切り開かれ、「喜作新道」とも呼ばれて
いる。当時猟師はカモシカやクマを仕留めてその皮を売って生計を立てていた様である。また小林喜作はライチョウの剥製を
作って学校へ卸していたという話もある。猟師は当時金持ちの登山案内の副業もしており、山小屋営業に目をつけた喜作は
殺生ヒュッテの創始者であり、その経営的手段・前提として猟で歩いていた東鎌尾根の登山道を整備した面も大いにあるだろう。

真意はともかく、大正9年この喜作新道完成によって今まで「中房温泉〜大天井岳〜東天井〜横通岳〜常念乗越〜一ノ俣谷〜
槍沢」という槍ヶ岳への大迂回ルートが短縮された意義は大きい。

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    大天井ヒュッテに到着                    ヒュッテでの夕食

天気は悪いし寒いので結果的にはこれで良かったのだ。夕食はトンカツ、野菜サラダ、味噌汁でまずまずだった。
今北アルプスの山小屋料金は素泊まり6千円、2食付で9千円だから食事付きが妥当だろう。二段式の部屋の
一階隅でマーシーさんと寝た。寝不足だったので恐らくそこそこは寝れたと思う。


 第2日目: いよいよ槍ヶ岳・北鎌尾根に
平成23年9月23日(金)秋分の日

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この地図の作成に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)を使用したものである 
槍ヶ岳・北鎌ルート図

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             東鎌・貧乏沢付近から槍ヶ岳・北鎌を一望

第1ステージ:大天井ヒュッテ〜貧乏沢〜天上沢〜北鎌沢〜北鎌沢コル (約5時間半)

05時に起床して食堂に行くとヒュッテ管理人さんが「今日、明日はいい天気ですよ〜 でも大陸から寒気団が入って
相当冷え込んでいますから貧乏沢の凍結に気をつけて下さい」とアドバイスを頂いた。


05時30分気合を入れてヒュッテを出発 貧乏沢まで約20分と言う事で目印に気を付けながら歩くと05時47分
赤テープと小さな木のプレートが置かれた貧乏沢分岐に到着。


貧乏沢を下る

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ヒュッテを出てトラバース道を進むと槍の天辺が見えた        すぐに貧乏沢分岐に到着

低い尾根を乗り越えると入り口はハイマツで覆われ、北側正面には見知らぬ山々の稜線が見える。暫くハイマツの
くねった枝に悩まされるが直ぐにゴロゴロ石の沢となる。回りはダケカンバの生えた樹林地帯である。沢に沿って
ゴーロが続くのでルートはわかり易い。

暫くすると沢の傾斜が急になり左岸に沿って踏み跡が続く。


06時45分右手後方から別な小沢が合流し、そこは滝となっている。ルートは終始左岸のトラバース道なので危険
な場所はない。思ったよりここを歩く人が多く明瞭な踏み跡が存在している。左手には朝日を浴びた槍ヶ岳北鎌の稜線、
北鎌コルから天狗の腰掛、独標が見える。


沢には次第に水量が多くなり冷たい沢音が辺りに木霊す。07時20分ロープが掛けられたちょっとした大岩を下る。
これって我々がいつも四国で歩いている道より遥かに条件が良い。沢の幅が広くなり、天上沢の対岸が眼前に近づいて
来ると、07時32分沢に押し出された中州へと渡る。更に少し緩やかになった赤っぽい岩の沢を進むと07時40分
 「天上沢」へ下り立った。


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    ハイマツの藪を少しだけ進む                 踏み跡は明瞭で所々にテープも見られる

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最初は沢を進む (今日は水が多い)             すぐに左岸のトラバース道に導かれる

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       左岸の踏み跡                            少し沢にも下りる

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   右手後ろの支沢から滝が落ちている            相変わらず左岸の巻道

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   独標                 天狗の腰掛      北鎌沢のコル

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    左岸の巻道にはオヤマボクチが咲いていた       岩にロープが架けられた場所がある(ここを下る)

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   トリカブトもいい色で咲いていた               天上沢の対岸が見えて来た

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      ここから中州に渡る                   赤い石ころの沢を下ると最後は大きな赤い岩となる

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     天上沢に下りついた    沢には結構水量があった

天上沢は想像したよりも川幅が広く、又台風の影響か水量も多い。渡りやすい場所を選びながら上流に向う。
前方には帰りに歩く東鎌尾根が朝日に光っている。又あの標高近くまで登るのか・・・

08時05分 北鎌沢出会いに到着。辺りにはネットで見たテン場らしき形跡や目印はあまり見あたらなかった。
入り口は押し出された岩でちょっとした崖の様になっている。四国の沢みたいに奥行きがないので正面に見える
稜線に向って結構急な沢が伸びている。

先ほど標高差―700mの貧乏沢を下ったかと思うと、今から又標高差+600mを北鎌尾根のコルまで登り返す
事になる。まあ北鎌を歩く我々にはこれしかないので諦めて歩くしかない。


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        貧乏沢を振り返る               天上沢   正面が東鎌尾根



北鎌沢右俣を上がる

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                北鎌沢出合  正面右側のコルに向かう

10分程歩いて「水は右俣は少ないので左俣分岐付近で補給」とあったが両方共水量が多いので沢なりに
歩いていると「そっちは左俣でっせ〜」と言うマーシーさんの声で直ぐ右俣へ復帰。結構左俣へ入ってしまう
登山者が多い事が良くわかる。


沢自体は貧乏沢もこの北鎌沢右俣も高度差はあるがC級の沢で美しさなどは望むべきもない貧弱な沢だ。

歩き易い場所を選びながらひたすら上流を目指す。沢水は台風の影響で沢山あるが、09時30分水流が一旦
途切れる。上からマーシーさんがペットボトルを持って水が切れかかった場所まで水を補給に下りていった。
だが暫くすると又水が現れがっかりするが、それがほぼ稜線直下まで続いていた。台風による大雨の影響だろう

貧乏沢の下りは左岸のトラバース道が多かったが、北鎌沢右俣ではほとんど沢に沿って歩くのが特徴だ。

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    この突き当りが二俣分岐                   右俣の狭い沢に沿って歩く

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    結構水が多い                          オヤマボクチやトリカブトが咲いている

10時00分大きな岩が増えてここでは岩間を苦労して這い上がる。這い上がった大岩から下を眺めると天上沢
が眼下に遠のいていた。10時23分大きな岩にロープが吊るされていたがこれは不要だ。オヤマボクチやトリ
カブトがあり写真を撮る。


右手には岩壁が迫り出しており、こんな方向に進んで遭難した人が居るって信じられない。

やがて周りに草が多くなり10時40分上方にネットで見た沢を分ける中州の様になった場所に到着。中州には
大きな樹木があり、それを右手に進む。

11時04分 北鎌のコルに到着し、這い上がった沢を眺めながら初めて15分休憩する。 北鎌のコルには
テントが2幕位張れるスペースがある。大天井ヒュッテを出発して5時間半歩き、やっとここで前哨戦が終わ
った。


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あは〜 水が切れたとペットボトルを持って沢を下る      大きな岩を乗り越える

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   沢が狭くなり雑草が多くなる                高度が上がって正面の稜線に近くなる

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   まだまだ水が流れているぞ                正面の樹木がネットで見た覚えあり

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   木の生えている堆積中州を又右手へ進む                天上沢の筋が随分下に見える

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   正面の東鎌尾根と高さが並ぶ                 北鎌のコル  テントが2張り程のスペース



いよいよ北鎌尾根を歩く

第2ステージ
北鎌沢コル〜天狗の腰掛〜独標〜北鎌平直下(ビバーク地)(約6時間)

さあいよいよ槍ヶ岳の北鎌尾根歩きとなる。
11時20分コルから左手にトラバース路の踏み跡がありこれを進む。10分程歩くと又稜線のコル部に出るが、
ここにもテントが1幕張れるスペースがあった。後ろを振り返ると北鎌コルの北側尾根は赤茶けた崩壊斜面が見
られ、厳しい尾根の印象だ。やはり北鎌尾根歩きは北鎌コルから出発するセオリーが頷ける。


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   北鎌コルから左手にトラバース路がある           トラバース路を振り返る

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     次のコルはこんな場所                  テン場も意外なところに見られる

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振り返ると北鎌のコルの更に北側にあるP7、P6、P5、P4方面     右手は硫黄尾根が並ぶ

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        前方には厳しそうな岩山が見える

 

11時50分次のピークが現れる。ここの取り付きはハイマツの枝を頼りに這い上がるのはネットで調べていた
通りだった。12時05分その急斜面を這い上がると赤いザイルが張られていた。更にハイマツの急斜面を進み
12時13分ハイマツ尾根部に上がり着く。この辺りはまだ北鎌の厳しさを感じない前哨戦だ。
  

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     ハイマツの崖を這い上がる             ちょっとヤバい方から這い上がったかな

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    滑落防止の赤いザイルが敷設されている             ハイマツ尾根に這い上がる

                
前方には大きな三角錐のピークとその手前に四角い大岩のピークが2つ並んでいる。恐らく手前の大岩が「天狗の
腰掛」だろう
それにしても山の場所名で天狗を使った場所が多い事だ。天狗岳、天狗岩、天狗の庭・・・

ハイマツ尾根を進んで天狗の腰掛岩の下側にテントが張れそうな平たいスペースがあったので12時47分ここで
昼食とする。昼食と言っても別にお湯を沸かす訳でもなく行動食を口に放り込むだけなのだが。前方にはまだハイ
マツが生えたピークがあり、草木が生えていると何だか安心感がある。



前方に聳える大きなピークは恐らく「独標」で手前にも少し小さめのピークがある。13時10分ハイマツ尾根を
過ぎると、一旦コルに下がりいよいよ眼前に独標が近づくき次第に岩尾根へと変貌する。

コルから少し岩尾根を這い上がると右手にトラバースする踏み跡があり、ここはまだ草木があるものの、右下は崖と
なり大きく切れ落ちている。



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               テーブル岩の向こうに北鎌独標が見える

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      これが天狗の腰掛か                       天狗の腰掛あたりを通過


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          天狗の腰掛から北鎌独標の間にはまだまだピークがある

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  天狗の腰掛直下のテン場で昼食にする         さていよいよ佳境に突入するぞ〜

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      天狗の腰掛を振り返る   マーシーさんが直下に見える

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                      北鎌独標が眼前に迫る


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    落ちたら大変な場所もある                       振り返る平和な風景

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       13時10分 北鎌独標の基部へ下りる前にルートを確認


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マーシー その岩幅 君に狭すぎない?              取り敢えずここをトラバース路まで這い上がるのだ

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写真を撮ってる間にマーシーさんはもう中段まで這い上がっている   振り返る岩尾根の風景

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13時20分 奥の細道へ入る 踏み跡が割としっかり付いている       でも滑ったらヤバい

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       13時25分 振り返ると二つ岩山が並ぶ


岩尾根を進み13時30分前方の独標トラバース路の全容が現れた。遠目にはとても歩けそうにないが、こんな
場所は近くに行くと案外ルートがあるものだ。ここでは下調べしたセオリーどおりに右手に巻く事にする。
幅が非常に狭いがルート上の岩は比較的しっかりしていた。


13時50分独標トラバース路の核心部を通過。ここは狭い岩棚になっており足元は崖で切れ落ちている。高所
恐怖症の人には厳しい場所である。しかしながら注意を払いながら慎重に歩くと手がかり、足がかりがありザイル
確保も必要がない。要するに集中力を保ってヘマをしない事だ。


14時00分ロープが吊るされているチムニーみたいな岩の間を登るそこを這い上がり更に岩棚を進むと14時
15分前方に小槍と槍ヶ岳が霧の中に姿を現した。少し天気が悪くなり何と時折小雪まで舞いだしたが、霧で何も
見えないよりはマシだ。そこでハイマツ近くを適当に進み、14時30分やっと独標の南側尾根筋へと這い上がる



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            ステルス岩                   13時30分独標のトラバース路が見える場所に到着

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            振り返ると高度感ばっちり

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むむっ  これがトラバース路か〜 腹に吸盤を持つ男      いくら紐があるってもここヤバいんじゃない?

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     狭いトラバース路が続く               ガレ場は遠目に心配だったが意外と足場がしっかりしていた

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         13時47分  北鎌独標トラバース路前半を振り返る

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ここが有名なトラバースの難所なんしょ?  13時50分           う〜〜む確かに切れ落ちている

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      逆からみるとこんな感じね  (山雑誌ピークスの槍ヶ岳特集にあった写真の場所)

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            その先も絶壁が続く             おひょ〜 ま〜〜ひ〜〜 そこ大丈夫なの〜?

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         僕ちゃんも行かねばなるまい  戦場カメラマン 頼むで〜
 
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               北鎌独標を見上げる  

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    独標トラバース路を振り返り北アルプス北部方面を眺める  こちら側の天気は良い

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 「マーシーは お先に這い上がらせていただきます」    わても続いて・・・下はなるべく見ない様にと思うのだが

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  独標山頂部を越したのでそろそろ這い上がらなくては       おっ  槍が見えた かな?  (14時15分)

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マーシーさん そろそろ稜線へ這い上がろうぜ〜          やっぱり 槍の穂先だわ    

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       14時32分 稜線に這い上がる   これが槍ヶ岳 北鎌の姿だ

14時36分 東鎌尾根の向うに大天井岳から常念岳が姿を見せる。このスケールの大きい北鎌尾根歩きに満足する。
前方には尾根が右手から槍ヶ岳に向って回り込み左手は鋭く切れ落ちている迫力のある風景だ。こんな岩だらけの尾根
にも所々にハイマツが強い生命力でへばりついている。この根性を見習いたいものだ。

15時00分小ピークを右手に下りてまた岩尾根を進むと前方に奇怪な岩が現れその向うに槍ヶ岳が霞んで見える。
ここでは尾根という尾根は全てが尖がって鋭く見える

15時10分ハイマツの尾根を進むがこの頃になると槍ヶ岳は霞んで見えない。この時点で北鎌のどこかでビバーク
する決意を固くする。折角来たのに最後の詰めを霧の中で終わらせたくはなかった。

15時30分右手にトラバースし15時36分又チムニーを這い上がり稜線上に出る


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喜作新道の向こうに大天井岳から常念岳が見える       束の間の安らぎを覚える尾根

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          前方は常に尖った岩尾根が槍の穂先へと続く

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       ハイマツが岩にへばりついて逞しい           奇怪な岩の向こうに槍が霞む (15時00分)

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   尖ったピークは迂回する                    稜線から右手に下りていく

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15時15分 岩尾根を又上がって進む              それを越すと次のピークが現れる

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15時30分 ザレ気味のトラバース路を進む           15時36分 チムニーを這い上がる

北鎌独標はP10の番号が付されている。その後P11、P12,P13,P14,P15を経て北鎌平に至るの
であるが、もうどれがどのピークやらさっぱりわからない。とにかく稜線上を突き出た岩を避けながら進む。 
辺りは霧に覆われているがルートは思ったよりわかり易い。16時00分再び右のトラバース道に入り、狭い岩の
小道に沿って慎重に進む。16時30分又岩だらけの稜線に這い上がる。


16時40分前方霧の中に三角錐の大きなピークが浮かぶがこれは槍ヶ岳ではない1700時岩屑だらけの稜線部
を歩いていると突然後方が明るくなり少し霧が晴れ、青空が一部現れた。


すると何とブロッケン現象が左手に現れ二重の輪の中には仏様とは縁遠い自分の姿が写っている。急いで霧の中に
いるマーシーさんに「ブロッケン現象やで〜」と叫ぶとすぐ傍で「ほんとですね 今輪が三重です」と生まれて初め
てみる自分仏に感激している。北鎌でブロッケン現象に出会えるなんて何とラッキーなイノシシ達だろう。


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   15時42分 大きな岩を右に巻く                    その先で又稜線に出る   

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          16時06分 ちょっと神経を使う場所を通過

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     くわばら くわばら   何せ足元の幅がこれだけしかありませんから

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          道は足幅があればヒズメがひっかかるので大丈夫です
 

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16時25分 ここから稜線へ這い上がります           16時40分 稜線の全面にピークが現れた

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    16時54分 岩屑だらけの尾根を歩く            突然陽が差してきたぞ

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     後ろを振り返ると一瞬視界が開けた    硫黄尾根が少し低めに見えている

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    北鎌尾根で見たブロッケン現象              播隆上人(ばんりゅうしょうにん)もこんなの見たのかな?

再び霧に覆われた尾根を進むと17時25分テントが張れる場所があった。マーシーさんと相談の結果、ここで野営
する事に。ゆきねえの掲示板でみかんさん達に「北アルプスでドームシェルターの使用体験をして来るわ」と言った
事がここで実現した。

途中までマーシーさんは早く槍を制覇して槍ヶ岳山荘でビールを飲みたいとぶつぶつ言ってたが、今は諦めて一緒に
ドームシェルターを組み立てて中に潜り込む


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    槍ヶ岳はもう近い                     マーシーさん その辺りでビバークしようよ 17時22分

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17時36分 ドームシェルターを設置すると一瞬晴れ間が      槍ヶ岳・北鎌でヴィバーク


テントを張ると少し霧が晴れて前方の槍ヶ岳が夕日を浴びて姿を現した。何て幻想的な風景だろう。北鎌に来て
幸せな自分が居た

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ここで恒例の替え歌

原曲はサザンオールスターズ の いとしのエリーで

「いとしの ヤリ〜」

貧乏沢を下り 北鎌沢を這い上がってもなお 

   歩きとおす気持ちを 持ち続ければいいのさ ♪

 俺達にしてみりゃ  ここが夢の北鎌 ♪

   Yari 〜 my  love so sweet ♪


 雪がちらつき 冷たい風が吹いても ♪

   頭上に聳える  槍への思いがつのれば ♪

 巻き道につまる事なく  岩を乗り越え ♪

  Yari 〜  my love so hard ♪


  
尖ってもっと yari  ♪ 気高く on my mind ♪

  
聳えてもっと yari  ♪ 素敵に in your sight ♪

  
赤く染め上げ 日が落ちる ♪

 Yari 〜 my love so hard  ♪

 Yari 〜 my love so  sweet  ♪


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              夢に見た北鎌でのヴィバーク


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モンベル ドームシェルターで北鎌ヴィバークだ〜      左:マーシー(シュラフカバー) 右:エントツ山 (ツェルト巻)


確かに普通のビバークツェルトの重量は手の平サイズで300g弱。このモンベル・ドームシェルターは800g位
であるが、ポールでクロスに組み立てると一見シングルウォールのテントと何ら変わらないスペースとなる。寒波が
来て小雪やアラレが舞い散る尾根歩きであったが、ドームシェルターで冷たい風を遮断出来るって事は実に頼もしい。


問題は北鎌歩きの軽量化の為に寝袋をイスカ・エアー450からエアー180夏用にし、シュラフカバーをもエマー
ジェンシー・ツェルトに代用し、その上ホッカイロをコンビニで買い忘れた事だった。


持って来た物を全て着込み寝袋に潜り込む。シュラフカバーに代用したエマージェンシー・ツェルトは生地が滑り易く
シュラフにうまく巻きつかない。北鎌尾根は風の通り道で一晩中ドームを揺るがし、その度に内側の結露が凍ってパラ
パラと雪の様になって顔に落ちてくる。中々こんな風情のあるテント泊はそうそう経験は出来ない。当然あまり寝る事
は出来なかった。


夜中に外を覗くと天空は見た事の無い様な大きな星で覆われ、地球は間違いなく宇宙に浮く天体だと実感した。さあ
明日はいよいよ槍ヶ岳の山頂だ。



槍ヶ岳・北鎌 後編 槍ヶ岳登頂と東鎌尾根縦走は ここ